「なあなあなあ、ちゅーして、ちゅー」
夕方いきなりやって来た進藤は、玄関に突っ立ったまま出迎えたぼくにそう言った。
「なあ、いいじゃん。ほっぺたでいいからちゅーして?」 「…いきなりなんだキミは」 「えー?だってほら、今日はさあ」
にやにやと笑っている顔にピンときて言う。
「節分だから接吻なんてくだらないことを言ったらたたき出す」 「ええええ? ひでぇ」
鬼は外
福は内
今、目の前にいる進藤はぼくにとって鬼だろうか?福だろうか?
「いいじゃんか、ほら、節分だから、おれ海苔巻き買ってきたし、おまえが好きだって言ってたケーキ屋で紅茶のシフォンも買って来たし」 「いや、物でつられても」 「えー?じゃあ、「朝まで碁券」もつけようか?」
だから入れてよと、上目使いに見られて笑ってしまう。
「いいよ入って」
ただし、節分だからってキスは無し。それでもって「朝まで碁券」は「朝まで早碁券」に変えてもらわないとと言ったら「うへえ」と言った。
「おまえって本当に色気も素っ気も無いのな」 「バレンタインならともかく節分でそんなものを求められても」
困るよと笑うと、「だからそーゆートコがさ」と進藤は拗ねたように言って、口を尖らせたまま靴を脱いだ。
「はいこれ」
下げていた袋をぼくに差し出すので、受け取ろうとしたらぐいとその手を引かれた。
「…あっ」
前のめりになった所にすばやく唇を合わせられる。
「しっ…」 「ごっちそうさまー♪」
真っ赤になったぼくを置き去りに、さっさと部屋に入って行く。
やっぱり進藤は鬼だと思い。
「なあ、どっち先に食う? 海苔巻き? それとケーキ?」
振り返って人懐こく笑うその顔に福だと思い直した。
「ダメだよその前に、とりあえず一局打ってもらわないと」 「えー?おれ腹減った」
こんなに誰かを愛しく思うなんて、自分で自分が不思議でたまらない。
鬼でも 福でも
どちらでもぼくはキミが好き。
|