SS‐DIARY

2004年02月03日(火) 今日は節分

「なあなあなあ、ちゅーして、ちゅー」

夕方いきなりやって来た進藤は、玄関に突っ立ったまま出迎えたぼくにそう言った。

「なあ、いいじゃん。ほっぺたでいいからちゅーして?」
「…いきなりなんだキミは」
「えー?だってほら、今日はさあ」

にやにやと笑っている顔にピンときて言う。

「節分だから接吻なんてくだらないことを言ったらたたき出す」
「ええええ? ひでぇ」

鬼は外

福は内

今、目の前にいる進藤はぼくにとって鬼だろうか?福だろうか?

「いいじゃんか、ほら、節分だから、おれ海苔巻き買ってきたし、おまえが好きだって言ってたケーキ屋で紅茶のシフォンも買って来たし」
「いや、物でつられても」
「えー?じゃあ、「朝まで碁券」もつけようか?」

だから入れてよと、上目使いに見られて笑ってしまう。

「いいよ入って」

ただし、節分だからってキスは無し。それでもって「朝まで碁券」は「朝まで早碁券」に変えてもらわないとと言ったら「うへえ」と言った。

「おまえって本当に色気も素っ気も無いのな」
「バレンタインならともかく節分でそんなものを求められても」

困るよと笑うと、「だからそーゆートコがさ」と進藤は拗ねたように言って、口を尖らせたまま靴を脱いだ。

「はいこれ」

下げていた袋をぼくに差し出すので、受け取ろうとしたらぐいとその手を引かれた。

「…あっ」

前のめりになった所にすばやく唇を合わせられる。

「しっ…」
「ごっちそうさまー♪」

真っ赤になったぼくを置き去りに、さっさと部屋に入って行く。

やっぱり進藤は鬼だと思い。

「なあ、どっち先に食う? 海苔巻き? それとケーキ?」

振り返って人懐こく笑うその顔に福だと思い直した。

「ダメだよその前に、とりあえず一局打ってもらわないと」
「えー?おれ腹減った」

こんなに誰かを愛しく思うなんて、自分で自分が不思議でたまらない。

鬼でも
福でも

どちらでもぼくはキミが好き。


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