連載途中で小咄
2010年03月27日(土)
ネタフォルダから発掘。ワンころとエース。 どーってことのない日常のお話。
日曜日、快晴。 こんな日にエースが家でじっとしていられる訳がない。朝食を済ますやいなや、サンジにおねだりして、冷蔵庫の中のありったけの材料で特大の弁当を作らせて、近所の公園までピクニックに出かける。 バドミントンとバスケットボールとフリスビー、思いつくだけ抱えて来た。それに弁当を合わせると大した大荷物だ。とりあえず公園に着いて早々に、バスケットコートで真剣勝負。こと勝負となると意地っ張りの二人は、周囲に見物人ができる程マジになってやりあって小一時間、勝負はエースに軍配が上がる。見物人達の拍手喝采を浴びながら、ムキになったサンジが、「次はバドミントンで勝負だ!!」と叫ぶのに、エースは情けない声で「腹へった…」と返した。
「あ〜、旨かった!」 大量の弁当を平らげて、エースは満足げに芝生の上に寝転んだ。 「腹がこなれたらバドミントンな!」 まだ先ほどの負けを根に持っているサンジに「うんうん」と適当な返事を返すエースは、もう半分眠りの中だ。 腹もくちて、日差しはポカポカ。これでエースに寝るなって方が無理だ。ほっぺたに米粒を付けたまま爆睡の体制に入っているエースに苦笑して、その平和な寝顔を覗き込む。目元にかかる髪がうっとうしそうで、そっと指で払ってから、頬に付いた米粒を取ってぱくりと自分の口に入れた。 「…今は優しくしといてやるけど、1時間経ったら腹踏んづけても起こすからな」
「ん〜…サンジ〜…」 弁当箱を片付けてたら、エースの寝ぼけた声が自分を呼ぶ。こんな状況で奴が自力で起きるはずはないと、サンジがいぶかしげに振り返ると、 「おわっ!」 エースが今にも熊に食われそうになっていた… 訳ではなく。 大きくて真っ黒な犬が、エースの顔に鼻面を寄せてフンフンと匂いを嗅いでいた。 エースはといえば、その犬に片腕をまわしてなでくりまわしている。サンジの名前を呼びながら。 いや、俺はそんなに毛深くねーから。 「どうした、お前、どっから来たの?」 側に寄って声をかけると、犬はサンジを見上げて挨拶程度にはたりとしっぽを振って、またエースに戻ってベロリと頬を嘗め上げた。 「んん〜…サンジってば今日は積極的…」 「アホか!」 どかっと脇腹を蹴ってやると、ようやく目を開けたエースが、獣のドアップに驚いて「どわっ!!」と声を上げた。 「なんだぁ、どっから来たの、こいつ」 「知らね、気付いたらここにいた」 「迷子か〜?お前」 エースが起き上がって頭を撫でてやると、ぱたぱたとしっぽを振る。 つやつやの黒い毛に、赤い首輪が良く似合う。きっと飼い主と散歩に来て、リードを外されてはぐれてしまったのだろう。 賢そうな黒い瞳が、期待に満ちた目でエースを見上げる。まるで「遊んで」と言っているようだ。 「サンジ、フリスビー出して、フリスビー!」 さっきまで爆睡していたはずのエースは、キラキラした目でサンジに催促する。まったく、どっちが犬っころなんだか。 「よっしゃー!遊ぼう、ポチ!」 「ワン!」 フリスビーを手に立ち上がったエースに、犬も興奮してじゃれるように彼の周りを跳ね回る。 なんだかなあ。そのネーミングセンスはどうなのよ。おそらくは血統書付きの洋犬にポチはないだろう。まあ本人(本犬?)は気にしてないみたいだけど。 エースはものすごく動物に好かれる。この間も動物園に行ったら、チンパンジーに求愛されて大変だった。サンジも、多分エースよりよほど動物好きなんじゃないかと思うのだが、寂しい事に、彼程熱烈に愛を返される事はない。なんでだ、俺のどこが悪い。 「よーし、取ってこーい!」 エースが勢い良くフリスビーを投げる。途端に、まるで弾丸のように駆け出した犬が、驚く程高く飛んで、空中で身体を捻ってキャッチする。はしゃいだエースが両の拳を突き上げて、何故か犬と一緒に飛び上がる。こっちもなかなかの跳躍力だが、Tシャツが思い切りめくれ上がって腹が見えている。子供か、あんた。 フリスビーを銜えて戻ってくる犬を、エースが手を叩いて迎える。勢い良く飛びつかれて、芝生の上に転がってじゃれ合う。なんとも微笑ましい光景だ。 「サンジー!見たか、今の」 芝だらけになったわんころが二匹、こちらに向かって走ってくる。 「いやー、一回やってみたかったんだよ、犬とフリスビー」 エースが芝生の上に足を投げ出して座ると、犬はすかさず膝の上に頭を乗せる。 「お前、凄いな〜」と犬の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。サンジも、うちのと遊んでくれてありがとな、と労りを込めてつやつやの背中を撫でてやった。 その時、 「あー!いた!ラッキー!」 振り返れば、リードを手にした女の子。犬が起き上がってしっぽを振りながら彼女の元に走って行く。 「あらら、飼い主さんか」 残念そうに言ったエースに、彼女から見えないように肘を入れてやった。
犬はご機嫌で飼い主とエースの間をくるくると行ったり来たりしている。 「もー、すぐふらふらどっか行っちゃうんだから」 ああ、うちのもそうなんです、なんて思っても口にはせず、「ご迷惑を」と恐縮する彼女に、いやいやと笑って返す。 「俺が遊んでもらってたんだ」 そう言って笑ったエースに、彼女は頬を赤らめた。 …訂正、彼は動物と女の子にモテる。そういや子供にも。
飼い主の女の子にサンジお手製のスコーンを持たせてやって、色々と複雑な気持ちを隠して、笑顔で手を振った。犬も、飼い主の女の子も何度も振り返り、振り返り去って行った。 「いやー、楽しかったなー」 サンジの複雑な気持ちなどさっぱり気付かずに、エースはどこまでも能天気に楽しそうだ。 「サンジ、俺もさっきのスコーン食いたい!」 「もう腹減ったのかよ!」 「おう!」 キラキラと期待に満ちた目は…ものすごく、どこかで…。 「……お手」 「わん」 頭の上に???をいっぱい貼付けながら、それでもエースはサンジの差し出した手にぽん、とグーにした手を置いた。それから何がおかしいんだか声を上げて笑って、ぎゅーぎゅー抱きついてくる。 動物と女の子と子供にやたらとモテるこの男が、誰よりも惚れているのはサンジなのだ。まあ、それで手打ちとすっか。 「よーし、これ食ったらバドミントンな!」 「おう!」 じゃれついて離れないエースを適当にいなしながら、サンジは鼻息も荒く、バスケットからスコーンと、カバンからはバドミントンのラケットを取り出した。
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