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子猫後日談
2008年01月05日(土)

「…これ、記念にもらっていい?」
そう言ったら、サンジは露骨に嫌な顔をした。
エースの手には、ふさふさのネコミミとしっぽ。サンジがこの二週間生やかしていた萌えアイテム…もとい、萌え萌えの実の恐るべき効果だったが、実の効力が切れたとたん、ぽろりと落ちた。
なかなかにシュールな光景だった。
「趣味悪すぎ」
「まあそれは冗談だとして、普通にゴミ箱に猫の耳やら尻尾やら捨ててあったらビビるだろ」
「…そりゃまあ、確かに」
と、サンジには言ったものの、本音を言えば冗談でもなんでもない。確かに趣味がいいとは言えないが。
だって毎日撫でてキスして愛おしんだのだ。いらなくなったらゴミ箱にポイなんてできない。
「燃やしちまえば。あんたなら一瞬だろ」
「燃やすってお前!」
なんて恐ろしい事を!とおののくエースに、サンジはフンと明後日の方向を向く。
元に戻ったとたんに逃げだすかと思っていた。
明らかに挙動不審だから、猫な時の記憶は残っているらしい。特に後半部分なんて記憶の底に沈めて永遠に封印したいだろう。
それでも、サンジはなんとか踏み止どまって、まだエースの前にいる。
目が泳いでるけど。絶対目を合わせないけど。
耳とか尻尾が着いてなくても、綺麗なサンジは見いて充分楽しい。もう膝に抱えていじくり倒す事はできないんだろうなあ、と思うとえらく寂しい気持ちになる。
じっと眺めていたら、俯き加減にエースの斜め後ろの床当たりを睨んでいるサンジの頬がほんのり赤くなってる事に気付いた。
かつての自分達の関係―――まあ顔見知りって程度だ―――を考えれば、これは不躾な行為なんだろう。頭をポリポリと掻きながら、エースはサンジから目を逸らした。
今日、二週間二人で暮らした部屋を引き払う。猫化したサンジを連れ回す訳にもいかずここに留まっていたが、本当なら一つところに長い間滞在するのは危険だ。何事も無くてよかった。特に寝食も忘れた様にセックスに耽っていた時に海軍にでも踏み込まれたらひとたまりもなかった。
二人の距離は、昨日までの親密なそれではなく、よそよそしい空気の中、荷物をまとめる。
「支度出来たか?」
「お、おう」
エースはもとより、サンジも身ひとつでこの部屋に転がり込んで来た。支度など無いに等しい。
さて、残る問題は、この耳としっぽだ。
腐ったりしないだろうな。あの店の親父に処理の仕方でも聞いてみようか。耳と尻尾を眺めつつ、そんな未練がましい事を考える。
「本体はどーでもいいのかよ」
「へ?」
何やら恨めし気な声に、我に返る。
「耳と尻尾が取れたら、こっちは放置かよ…」
驚いて顔を上げれば、サンジは赤い顔でこちらを睨んでいた。
「えーっと…サンジ?」
咄嗟には言葉の意味が理解できなくて惚けていると、サンジは「…もういい」と、怒った様に背中を向けて、ドアに向かう。
「ちょ…待って、サンジ!」
慌てて追いかける。ドアの前で追いついて、後ろからぎゅっと抱きしめたら、彼は大人しく腕の中に納まった。
首筋に顔をうずめる。奇麗な貝殻みたいな形をした耳がほんのりとピンク色に染まっていた。猫耳にばかり気を取られていたのが申し訳無いくらい可愛くて、思わず唇を擦り付けると、腕の中の身体がピクリと緊張する。身体を硬くして、それでも健気に逃げずにいてくれる彼に、胸の中で期待が膨らむ。
「なあ、俺にこうされるの、嫌じゃない?」
サンジは答えない。その代わり、くるりとこちらを向いて両腕で抱きついてきた。
ぎゅうぎゅうとしがみついてくる様子は、猫だった時の甘え上手なサンジとは違っていて、でもそれが逆に必死な感じでいい。すっかり浮かれた気分で、口元に浮かんで来る笑みを押さえる事が出来ない。
「サンジ…サンジ!」
「…なんだよっ」
声が笑っているのに気付いたんだろう。怒った様に答えるサンジに、益々顔が笑み崩れる。
「ちゅーしていい?」
「〜〜〜今更聞くな!毎日しまくってたくせに!!」
お許しが出たので、緊張に強ばってるサンジの両肩を掴んで、ちょっとだけ身体を離す。真っ赤になって頑に顔を上げない彼の、額に、頬に、触れるだけのキスを落とす。
唇に触れても、ぎゅっと目を瞑っただけで、サンジは逃げなかった。両手で頬を挟んで誘う様に何度か啄むと、ぎこちなく唇を解く。迷う様に彷徨っていた両手が、躊躇いがちにエースのベルトの辺りに添えられる。
サンジの緊張が伝わってきて、なんだかこっちまで妙に照れくさいような気持ちになってくる。もっともの凄い事も散々したのに、まるで初めての相手とキスしているみたいな気分だ。
項に手を滑らす。喘ぐ様に開かれた口元に、そっと舌を忍ばせる。緊張して肩を竦ませるのを宥める様に、柔らかい髪を梳く。何度かくり返しているうちに、サンジの身体から強ばりが解けていく。驚かせないように、でもしっかりと懐に抱き込んで更に深く合わせたら、両手をエースの背中に回して体重を預けてきた。
後はもう夢中でお互いを貪った。サンジの指に力が籠り、背を這い上がる。肩に縋る様にしがみついて、必死にキスに応える様子が、彼の想いを伝えて来るようで、まるでキスを覚えたてのガキみたいに夢中になった。
エースの肩にもたれて喘ぐサンジの頭を片手で抱えて、金色の髪に頬を擦り付ける。細くてさらさらの髪の毛が気持ちいい。キスの余韻でバラ色に染まった頬はしっとりと柔らかくて、しつこくそこにもキスを落とすと、甘える様に頬を擦り寄せてくるから、またバカみたいに舞い上がる。
耳やしっぽが無くたって、なんてさわり心地のいいサンジ。
離れ難く思っていたのは、俺だけじゃなかったらしい。実の効果が切れるのと同時に消えてしまったと思っていた彼の気持ちが、まだちゃんと残っていた。思ってもみなかった幸運に、有頂天になっている自分を自覚する。
「本体に会いに行くよ、必ず」
「…絶対だぞ」
ああ、その上目遣いは反則だ。こころもち尖った唇にまたひとつキスを落とす。
「約束するよ、俺の子猫ちゃん」
「…アホ!」
照れてるんだか怒ってるんだか(両方だ)、真っ赤な顔をして、それでももう逸らされる事のない綺麗なブルーの瞳をふわふわと浮かれた気分で覗き込む。
俺の子猫が間違いなくそこにいた。

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