息抜き小咄
2005年07月21日(木)
「エースのクソ野郎!」 「ちょ、サンジ!?落ち着いて!」 突然切れた俺をなだめようと、エースの腕が伸びてくる。 「どうしたんだよ、俺なんかサンジ怒らす様な事した?」 肘を取られて体ごとエースの方に向かされる。
いつもみたいに抱いてあやしてやれば大人しくなるとでも思ってるんだろうか。 バカ力で人の事イヌかネコみたいに簡単に扱いやがって、その機嫌を取る様な声も気に入らない。 馬鹿にされてるみたいで、自分の事なんかまともに相手してられないと言われているような気がして、どうにもムカムカして、身を捩って奴の腕から抜け出した。 「俺はレディじゃねーんだ、そんなんで誤摩化されねェよ!」 近付いてくるエースを避けるように、テーブルの反対側に周りこむ。
癇癪を起こした理由なんて忘れてしまった。 だけど、久しぶりに会ったエースが、まるで普通の顔でニコニコと嬉しそうに笑っていた事に、無性にハラが立ったのだ。 「俺が悪いなら謝るから、理由を教えてくれよ」 人の気も知らないで、会いたいとか思ってるのは俺だけなんじゃないか、などと煮詰まってるところへ突然やって来て、ヘラヘラヘラヘラ、バカみたいに好きだの愛してるだの調子いい事ばっかり並べ立てて。 「俺がいて欲しい時にいてくれないエースなんてもういらねぇよ!黒ひげでもなんでも探しに行けばいいだろ!」 感情に任せて吐き出した致命的な一言。 口にしてすぐにぎゅうっと胃が捩じれた。反面、これで壊れるならもうどうとでもなれ、という気にもなる。そうすれば、いつ来るかも分らない相手を待って悶々とする日々ともおさらばできるのだ。 そう開き直ったら、今までずっと抑えていた感情が爆発した。 こんなのみっともなくて惨めだと思いながら、自分をそうさせているのはこの男なんだと、それすらもエースのせいにして。 「こっち来んなよ!」 何から何までムカついて、クッションだの洗濯カゴだの投げまくる 「危ないよ、サンジ」 軽く避けられて、余計頭に血が上る。怒りのあまり、ジワリと目がうるむのがわかった。 「よけんじゃねぇよ、バカ!」 「あ、ごめん」 突然静止したエースに驚いて、だけどもうモーションに入っていた体は止まらない。 ガツと鈍い音がして、金属製の灰皿がエースのこめかみに当たってパッと跳ね返って落ちた ヒヤリとして、思わずその場に立ち竦む。 「なんで避けないんだよっ!」 「だってサンジが避けるなって言うから」 「……っっ!!」 しれっと言うエースに、ボロボロっと我慢してた涙が溢れ落ちた。 「あんた、俺の事バカにしてんだろ…」 「そんな事ないよ、でもそんな風に感じたんならごめん、謝るよ」 「俺のホントにして欲しいことは何一つしてくんねーくせに…っ」 「ごめんね、サンジ」 エースの腕が慎重にサンジを抱き寄せる。嫌ならすぐに身体を離せるように、そうっと。 なんだかそれもまたムカついて、抱くならちゃんと抱けよと、裸の胸に額を擦り付けて背中に腕をまわした。 ただそれだけの事で、嬉しそうにぎゅう、と抱き返して来る。火拳のエースともあろう男が、そんなに簡単でどうするんだ。 「本当はいらなくなんかないでしょ?だってサンジ、こんなに本気で怒ってるもん」 ムカつく、本当にムカつく。何もかも判ってるふうにしてるところがムカつく。 「俺、ほんとはこんなんじゃねェんだ。こんな、みっともねぇ…」 わかってる、自分のはただの八つ当たりだ。 お互いに合意の上でのエースとのこの関係、彼一人に責任があるわけではない。それどころか、二人が会うために、相当に無理をしているのはいつだって彼の方だ。 それでも、次の約束もできずに別れて、いつ会えるかもわからないまま彼を待ち続ける事が、時々気が狂う程に堪え難い。いっそ、終わりにしてしまおうかと思うくらいに。
今まで繰り返してきた恋愛は、大抵そんな形で終わってきた。 これまでサンジの恋の相手はもちろんレディだったけれど、だから余計に、不満は全部胸にしまって、いつも笑って甘やかして何でも言うこと聞いてあげて。 大好きな人に何かをしてあげる事は幸せな事なのに、サンジの実は我が侭で甘ったれな部分が、それだけじゃ耐えられないと不平を言い始める。 でもそれを表に出す事はできないから、色んな事を腹に収めてただ笑っているサンジに、相手も違和感を覚え始める。 ただ優しいだけの男、と言われた事もある。本気で愛してなどいないのだ、と詰られたこともある。 結局、疑心暗鬼にとらわれたまま、噛み合わなくなっていく。 それでもどうせ相手は男だ、これで最後ならと、レディになら言えないことも、思い切りぶちまけてやった。 なのに。
「サンジは甘ったれの寂しがりやだもんな」 これだけ理不尽に八つ当たりをかましたのに、エースは何故か嬉しそうだ。サンジを大事そうに腕にくるんで髪にキスを落とす。 「俺、すげぇ嬉しいよ、サンジがあんなふうに気持ちぶつけてくれて」 「すげームカつく。どうせ俺はあんたみたいに超然としてないよ」 さっきまでの怒りはどこかに消えて無くなっていた。 それでもあれだけ大騒ぎした手前引くに引けなくて、まだ怒っている風を装って唇を尖らす。 「俺が切れたらシャレになんねーもん」 ぎゅうと抱きしめる腕に力が入って、エースがサンジの髪に頬を押し付ける。 「サンジ浚うよ。泣いてもわめいても帰してなんてやんないよ。まだ理性で抑えてるからなんとかなってるけど」 「エース…」 いっそそうしてくれたら、自分はどんなにか幸せだろう。だけどそんな事になったら、お互い後悔する事は目に見えている。一緒にいても、相手への罪悪感を抱き続けて、結局ダメになってしまうかもしれない。 「ごめん、エース」 ようやく素直に謝って、彼の背に回した腕に力を込めた。 終わりのつもりで理不尽な文句をぶちまけたのに、エースが全部受け止めてくれたから、すっきりしてしまった。結局自分は彼に甘えているのだ。それも彼にはお見通しだったらしい。 「もうほんと、手間がかかるなあ、サンジは」 「…今めんどくさいとか思っただろ」 彼がその方がいいと言うなら、マイナスの感情であれ、伝える努力をしようと思う。さしあたって、エースの言葉に引っかかりを覚えたので、甘えた気持ちで彼に絡んでみる。 「違うって、俺そういう面倒は大好きなんだってば」 「ほらやっぱり面倒って言った!」 「いやだからそうじゃなくてさ!わかってよ、サンジ」 焦った顔で必死に言い訳をするエースがおかしくて、笑ってしまいそうなのを必死で堪え、わざと拗ねた顔を作る。 こういうのも、恋人同士にとっても大切なひとつのコミュニケーションなのだと、ひとつステップアップした自分達の関係に、サンジはエースに気付かれない様に俯いて、こっそりと微笑んだ。
<Side Ace>
サンジが怒っている。 理由はさっぱりわからないけれど、ヒステリーを起こしたみたいに、そこら辺にあるものを手当たり次第にエースに投げつけて。 こんな事は初めてで、最初はひどく戸惑った。
「エースなんかいらない」 そう言われて、不覚にもショックで心臓が縮こまった。 だけど、怒りに任せてそう言い放った直後、サンジ本人がものすごく傷ついた顔をしたから、ああ、彼はこうして自分に甘えてくれているのだと、サンジが聞いたらまたヒステリーを起こしそうな事を思う。
サンジは気持ちを飲み込んでしまう癖がある。 それでも感情が顔に出る質だから、寂しいとか、悲しいとか、そういうのは実は伝わってきて、よけいに胸が傷む。 こんな風に不満も怒りも全部ぶつけてくれればいいと思う。 本気で怒ってるサンジはもの凄く奇麗だ。 八つ当たりだろうがなんだろうが、言いたい事も言えないで我慢している姿なんかよりずっといい。 キラキラした目が真っ直ぐに射抜く様に俺を見つめてきて、不謹慎かもしれないけど、ゾクゾクするくらい魅力的だ。
全部自分のせいでサンジが必死で怒って、必死で泣いて、それで最後は幸せに笑ってくれればいい。 そんなのがいいなあ、と思う。 彼の不安も怒りも全部大事に受け止めて。君が望むなら、俺は土下座だってするから。
「もうほんと、手間がかかるなあ、サンジは」 愛してるとか可愛いとか、そんな意味と同義語のつもりで言ったのに、ようやく落ち着いたはずのサンジが、またも不穏な顔で見上げて来る。 「…今めんどくさいとか思っただろ」
………あ。
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息抜き小咄。 息抜きしてる場合じゃないけどねー。てゆーか息抜きもクソも、今日はこれしか書いてないけどねー。 ハハハハハ(笑ってる場合でもありません)。
やはりネタファイルをほっくりかえしてきて手を入れました。 ファイル名は「ヒステリー」でした。 形にならなかったのは…なんでだろ、グダグダしすぎ?とか思ったのかな。 まあ、なーんでもない話です。
夏風邪をひきました。きゃー! 会社を早退して熱を計ったら、7度3分。 微熱なんだけど、平熱が低いガブは熱に大変弱いです。耐熱仕様ではないのです。 締め切り前って必ず風邪をひいてる気がします。
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