UNDER CONSTRUCTION

海賊純情
2004年11月23日(火)

港に向かうはずが、何故かたどり着いたのはうっそうとした森の入口だった。
どうやら人が管理している森らしく、運良くつかまった管理人に聞けば、港は今歩いてきた一本道の反対側だという。緑の髪の剣士は、ヤレヤレと呑気に頭を掻いて今来た道を引き返す。
さっきの今で、さすがに道筋には見覚えがあった。道の両脇には、森から切り出した材木を保管してあるらしい倉庫が続く。
そうしてしばらく歩いていると、道の先に明らかに行きとは違う光景が見えて来た。
そこに何があったのかは覚えていないが、さすがのゾロもこの惨状を目にしたら、気付かない筈はない。
おそらくは周りの建物同様、倉庫か何かだったのだろう。今は焼け落ちて、全くと言っていいほど原型を留めてはいないが。
風に乗って、肉の焼ける嫌な臭いがする。家畜でもいたのか、それとも人か。
ほんの30分余りで、こんなに大きな建物が灰になるはずがない。しかも、周りの家屋には一切影響を残さずに。
誰かを思い出す。
残骸の正面まで近づくと、果たしてその「誰か」が、まだブスブスとくすぶっている残骸の中に立っているのが見えた。


「また随分と派手にやったな」
「――よう」
久しぶりのゾロの顔を見て、エースは場にそぐわない、いつもどおりの人なつこい顔で笑う。
ジャリジャリと炭化した何かを無造作に踏みつけながら、こちらにやってくる。
ふと、彼が掌でもてあそんでいるものに目をやったゾロは、見覚えがあるそれにギクリとする。
「おい、それ…」
「ああ、サンジのだ」
確かコックが例のレストランのじいさんに貰ったという懐中時計だ。毎日同じ時間に丁寧に螺子を巻き、大事に大事に使っていた。
「――奴に何か?」
押し殺した声で聞くと、エースは目を見開いて笑った
「ああ、いや、サンジは無事だよ。今は船にいる」
エースの話では、街に出てタチの悪そうな連中に襲われたらしい。ナミが一緒だったらしく、スキを付かれて金目の物を奪われた。そこにタイミング悪く海軍が現れたため、サンジはトラブルを避けるため、奪われた品は諦めて、ナミを連れて船に逃げ帰ったのだと言う。
「ああ、海軍の動きが活発だからって、念のため船を港から動かしたんだ。連れてってやるから、早く帰ってやれ。見張りのはずのルフィもどっかいっちまっててよ、今は何かあるとヤバいからって、サンジがナミについてる」
それで、エースが代わりにそいつらのアジトまで、サンジの懐中時計を取り返しにやって来たと言うわけか。しかもこんな乱暴な方法で。呆れて溜め息を吐いたゾロに、エースがバツの悪そうな顔をする。
やがて、掌の中の懐中時計に目を落として、ポツリと言った。
「泣いてたんだ…」
誰が、とは言わない。まあそんな事、わかりきってはいるが。
「万死に値するだろ、こいつら」
きゅっと眉を上げ、冗談めかして言う。だが実は冗談でも何でもないって事は、なにより目の前の光景が物語っている。
「あんた、あいつを甘やかしすぎだ」
呆れて言えば、目の前の男が苦く笑う。
「まあ、一番泣かしてるのも多分俺だろうけどな」
そうかもしれないが、だからと言って、この男がコックを泣かせた罪で自分自身を殺したら、きっとあいつは泣いて泣いて、そのまま死んでしまうかもしれない。
「〜〜〜〜〜〜」
自分の妙に乙女チックな想像に、背筋がむずがゆくなって、ゾロは項をガリガリと掻いた。

船までの道すがら、お互い特に話す事もないので、ただ黙って歩く。
船は港を出て、入り江の少し沖に碇を下ろしていた。緩やかな坂を登っていくと、丘の向こうに水平線が現れて、やがて羊の頭の間抜けな船が見えてくる。
甲板から、誰かを待つように陸を眺めている黒いスーツ姿が見えたとたん、エースがソワソワとしはじめる。
「ワリィ、先行く」
そう言うと、エースは半身を炎に変えて、ゾロを残して一息で甲板まで跳んだ。
金色の頭がヒョコヒョコとエースに走り寄るのが見える。
きっとコックは手放しでは喜ばない。山賊崩れの連中などエースの敵ではなかったろうが、自分のためにその身を危険にさらすなど、あのコックが一番嫌う事だ。
エースがコックを抱き寄せる。大人しく奴の腕に収まった彼が、黄色い頭を奴の胸元に擦りつける。

ガレオン船5艘を一瞬にして沈める程の力を持った海賊の純愛。
「なんだかなあ…」
丘の上からそんな心暖まるというか、薄ら寒いというか、微妙な光景を眺めながらゾロは呟いた。

コックは果たして笑っているのか、それとも泣いているのか。どちらにしても、全てはエース次第だ。
それでも、足癖も口も最悪な凶悪コックの泣き顔など見たくもないので、ロクに知りもしない男の無事を、ゾロは祈った。


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会社の行き帰り、電車の中で打った小咄。
エース、ガレオン船5艘でいいんだっけ?調べるのが面倒臭い(コラ!)。
オフライン原稿やんなきゃ…と思うのに、何故か他の事がやりたくなる。
締切決められると、とたんによそ事したくなるのは何故なんでしょうねえ。
学生時代、試験の前になると、普段はろくに触りもしないキーボードやらギターやらが弾きたくなったもんです。
なんだろね、これって。

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