気紛れ銀魂小咄<3>
2004年09月18日(土)
屯所の廊下で、土方は近藤に呼び止められた。 「トシ、この間言っていた隊の再編成の話だが」 「ああ、もう大体はまとまっている。明日あたりには見せられると思う」 「そうか、御苦労だが頼む」 「ああ」 片手を上げて去って行く近藤の後ろ姿を土方はしばらく見送っていた。
報われない恋をしている。 彼の側にいられれば、彼を日本一の座に押し上げる事ができればそれいいと思っていた それなのに―――体が疼く。 この身の内で荒れ狂う激情を、あの人は知らない。 血の涙を流す心を押さえ付けて、一体どこまで自分を抑えることができるのか。 心が無理ならば、せめて身体だけでもと、彼の前に身を投げ出してしまいたいと、何度思ったことだろう。 泣いて縋ればもしかして、彼は一夜だけでも自分を愛してくれるかもしれない。 そんな悪魔の囁きに耳を塞いで土方は歯を食いしばった。 何よりも愛する男の為に―――。
「何勝手なナレーション付けてやがんだこのチャイナ娘がーー!!!」 渾身の力を込めて土方が投げ付けた硯を、神楽は片手で難無く受け止める。いつの間に入り込んだんだか、万事屋の面子が中庭からこちらを眺めていた。今にもゴザ敷いて弁当でも広げそうな程、呑気な雰囲気である。 「どこでそんなネタ仕入れてきた、未成年」 「正午の奥様よろめき劇場『愛、激情の果てに』から抜粋」 「本当にテレビっ子だなー、お前は」 いつも通りのマイペースさでそんな会話を交わす彼等に、土方は頭を抱える。どうもうちが警備が甘いようだ。現在見直ししている隊の編成をもう一度じっくり考え直す必要がありそうだった。 「……お前らどこから入った」 「どこからって、正面玄関から」 「なんせね、一緒に花見した仲ですからね。顔パスですよ」 「………」 後で門番にはヤキを入れてやると心に決め、土方は深呼吸を三度程繰り返した。こいつら相手にマジ切れしても仕方がない。奴らのペースに乗せられるだけだ。 「で、何の用だ」 「暇だから遊びに来てやったアルよ」 ケロリと言った神楽に、先程の決心などあっさりとすっ飛ばした土方が叫んだ。 「こっちは暇じゃねーーーーーー!!!例え暇でも誰が貴様らと馴れ合うか!」 「なんだお前、可愛く無い。素直になれないお年頃アルか?」 酢こんぶをかじりながら眉を顰めて言う神楽の台詞に、こめかみに血管を浮き上がらせた土方が銀時に詰め寄る。 「白髪パーマ!お前この小娘きっちりしつけろや」 「うちはノビノビ教育がモットーなんでね」 「ノビノビ育ち過ぎだっつの!」 「そこがこいつのいいところ…ってあれ、神楽?」 気付けば今し方までここにいた神楽の姿が無い。 「勝手にどこフラフラ行きやがった……っておおい!!」 広間に上がり込み、隊士達に混じっていつの間にやらどんぶりメシをかっ喰らっている神楽を見つけて、土方の裏拳が思いきり空を突っ込んだ。 「だからなんであいつあんなノビノビしてんの!真選組ナメてんなコラァ!!」 土方が銀時の胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶる。完全に彼等のペースに乗せられているとも気付かずに。
永遠の好敵手、神楽と沖田はあっちでまだ食べ競べをやっている。神楽はともかく、沖田のあのお世辞にも体格がいいとは言えない身体の一体どこにあの量のメシが入るのか。 「ちょっと、沖田さん大丈夫ですか?普通の人間が神楽ちゃんと食べ競べなんて無謀ですよ」 心配そうに言う新八に、土方はむっつりと答える。 「奴の胃袋はブラックホールだ。そもそもあいつを普通の人間と定義するな。普通の人間に失礼だ」 「言ってくれますねィ、土方さん」 「どわっっっ!!」 すぐ隣から声がして、土方は飛び上がった。本当にいつもいつも、沖田は気配を全く感じさせない。多分人間じゃないんだろうと、土方はもう半分やけくそでそこまで思う。 「お、決着が着いたのか?」 「米が底をついたのでノーコンテストでさァ」 「副長!今日の分の米、全て無くなりましたーーー!!」 「……………」 どうやら土方は朝飯を食いっぱぐれた様だ。気を取り直す様にひとつため息を付くと、シッシと銀時達に向って手を払う。 「お前らとっとと帰れ。こっちはお前らの相手してる場合じゃねーんだよ」 「いやー、だって気になっちゃってさ、多串君とあのゴリラの恋の行方が」 「―――まだそんな事言ってやがるのか」 心底呆れましたよ、といった口調で土方がわざとらしいため息を付く。 「いやー、俺も近藤さんひとつ屋根の下で寝起きしてる土方さんが、いつ欲望に負けて局長の寝所に忍んで行くか、ヒヤヒヤしてまさァ」 「総悟〜〜〜〜〜〜〜!!!」 よりにもよって、こんな所でそんな下らない話をするんじゃないと、ギロリと沖田を睨み付ける。 案の定、隊士達は明後日の方向を向きながらも、聞き耳だけはしっかりと立てている様子だ。 「…今の話、本当なのか?」 「あぁ?そんなもん本気に…!!」 クワッと歯を剥いて、土方が般若の形相で振り向いた先には――― 「こ、近藤さん!?」
「トシ…お前」 えらく神妙な顔で、近藤が土方を見下ろす。 「いやだから、これはこのアホ共と総悟が…」 「もういい、トシ、もう何も言うな」 近藤が土方の目をジッと見つめる。どう見ても冗談を言っているような顔には見えなかった。 「な、何コレ何コレ!こないだの夢の続き!?」 珍しく動転している土方。そして、あるものは恐怖に、あるものは好奇心から固唾を飲んで二人を見守る。 「トシ…」 「近藤さ…」 土方の声が心無しか掠れている。 近藤は胸の前で両手を組んで、目を伏せると、ほんのりと頬を染めて言った。
「…優しくしてね」
「いやあんたが受けかよ!!」 「生娘みたいに震えてんなよ!!」 「土方さんに処女はいけませんぜ!犯罪でさァ!!」 「近藤局長ォォ〜〜〜〜〜!!!」 嵐のような突っ込みが周囲から巻き起こった。なんかひとつ、土方的に聞きづてならないセリフもあったが。
「いやー、なんだ冗談か」 頭を掻きながら笑う近藤には、照れもてらいもなったく見られ無い。さすがは泣く子も黙る真選組局長だ。実に大物である。 「…冗談以外のなんだってんだ」 ぐったりとした様子の土方が、疲れたように突っ込んだ。 「すまんすまん、俺の早とちりだ」 はっはっは、と豪快に笑いながら、近藤は広間に入って行った。もうメシは神楽と沖田が全て食い尽くしていたのだが。 「……はっはっは、じゃねーだろ」 ため息を付きながら、その後ろ姿を見送る土方は、もうすっかり毒気を抜かれてしまったようだ。 「―――真直ぐだねえ、あの人は」 呆れたような関心したような、どちらとも取れる口調の銀時に、土方はため息まじりに言う。 「……真直ぐっつーか、ズレてるっつーか」 「気色悪ィとか言わねーで、身を差し出そうってんだから…そんだけお前が大切なんだろ」 「………」 なんだか微妙に情けない顔で土方が銀時の顔を見ている。 「何?」 「ここで真面目に返されてもなあ…」 あ?という顔をする銀時に、もう色々面倒臭くなった土方はヒラヒラと手を振ると、自室に引っ込んでいった。
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とりとめの無いとはまさにこの事だ。 …てかまだやってんのかい!ってかんじですか?(^^;)
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