暇にまかせて小咄
2004年06月04日(金)
夏島の海域に入ったのだろう、容赦なく照りつける日射しが肌を焼く。 その色素の薄い肌や瞳にはこの日射しは毒だろうに、彼はそんな事を気にかける様子もなく、軽く唇に微笑みを乗せたまま海を見つめている。 熱を孕んだ風に金の髪を揺らす君の横顔を見つめながら、ふと胸に浮かんだ想いに少し戸惑う。
君に見せたい風景がある。唐突に、強くそう思った。 故郷を知らない君に、自分の生まれた場所を見せてやりたいと。
夏の風が、生い茂った下生えを揺らしながら丘を上り、風車を廻す。 胸に込み上げて来る青い衝動に突き動かされて、むっとするような草いきれの中、追い風を背に受けながら、幼い弟の手を引いて転がるように走った斜面。 弟と自分だけの秘密の場所から見渡す海。 度胸を競うように切り立った斜面ギリギリに立って、視界一面に広がる海に抱かれた。 あの頃、自分でも持て余しぎみだった胸の内の疼きが何なのか、海は少しずつはっきりとした形を与えてくれた。 クタクタになって草の上に大の字に寝転んで目を瞑れば、頭の中を蝉の鳴き声が占拠する。 ジリジリと照りつける日射しに焼かれながら、まるで海の中にいるような、透明な膜を被ったような心地よい気だるさに身をゆだねる。 次第にからっぽになって行く頭で、海に出ていく自分を想像した。 やがて頭の中が真白になって、心は身体を離れて海の上を自由に渡る。 未知なる外の世界への少年らしい憧れと興奮で、はち切れそうだったあの頃の自分。 今も胸に残る、強烈な夏の日射し。怖い位の青。自分の原風景。 今の自分の礎となったあの風景を、どうしても君に見せたいと思った。 下手をすれば命取りにも近い、海の上でのこの感傷を押さえる事が出来なくて、自分でも戸惑う。 それでも、頭の中で君をそっとあの風景の中に当てはめてみる。 君のその明るい髪と、屈託のない笑顔は、しっくりとそこに馴染んで。 北の国から来たはずの君に、それは自分の勝手な思い込みだろうか。
「エース?どうしたんだよ、急に黙り込んで」 「んー?」 笑って彼の顔を覗き込めば、訝しげに見返してくる青い瞳。 ああ、あの日、狂おしい程の思いにかられて見つめていた故郷の海の色だ。 自分の海は、まぎれもなくあの故郷の海から真直ぐに続いている。 らしくもなく、慎重なしぐさで彼の白い腕を取って抱き寄せる。 素直に身を預けて来た彼がたまらなく愛おしい。それと同時に、最近その正体が見えて来た、ある感情が暖かく胸に広がる。 君を想う気持ちは、故郷を愛おしむ気持ちに少し似ている。 いつだって、心の帰る場所。自分を自分たらしめる場所。 「いつかお前に俺の故郷を見せたいなあ」 金色の髪に唇を寄せて、独り言のように呟いた。 「へ?」 目を見開いて腕の中から見上げてくる彼の顔がじわじわと赤くなる。 「どうしたの?」 「………それって…まるでプロポーズじゃん」 「そう取ってもらっても全然構わないけど?」 「…ああ…でも…行ってみてぇな」 まだほんのりと頬を染めたまま、彼がふ、と笑った。 「きっといいところなんだろうな。あんたとルフィが出来上がった場所なんだから」 「うん」 その表現がとても気に入って、エースは笑う。 そっと肩に頭を預けて来る彼の背を抱きながら、まるで自分が彼に抱きしめられているような気分だと、また故郷を思い出す。
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珍しい事に、会社であんまり暇だったもので書いた話。 今日はとってもいいお天気だったので、D兄弟の故郷に思いを馳せてみました。 いやそれだけ。ただそれだけ。 しかし最近こんな事なかったんで、マジで辛かったー。暇なのって辛いね。こんな時どうやって時間潰してたっけ?
メルフォにメッセージありがとうございます。 こないだ「Baby〜」に反応が薄い…と書いたら、皆さん感想など下さって(笑)。 読者に気を使わせる書き手ってどうよ。スミマセン、ありがとうございますm(__)m。 Sラスさんいつもありがとうございます。そして「通りすがりのサンジスキー」さん、貴女のメッセージを拝見して、なぜかとっても私のよく知ってる人が頭に浮かびました…。キジサン書くとしても当分無理だろうなあ…。書くよりも読みたいんです、Uさこさん。
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