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2002年07月28日(日) 少し、早かった。

「あー、もうこれで夏も終わったんだな」
数年ぶりに顔を合わせた吹奏楽部の先輩が
ふとこうつぶやいた。

僕らの一つの「夏」は、高校2年のときを除いて、
いつも他の人たちより少し早く終わってしまう。

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27日土曜日朝9時、神宮球場はどんよりとした曇り空に覆われていた。
普段の土曜日なら絶対にこんな時間に起きていることはない。
ただ、今日だけは違った。
起きなくちゃいけなかった。体が勝手に起きてしまった。
異常な興奮でハイテンション状態。

母校の高校野球の応援。西東京地区予選準決勝。
あと二つ勝てば僕が高校2年時以来の甲子園出場。
その気になれば全試合の応援に行けたのは昨年まで。
社会人になった今年は事情が違った。
職場で周囲の目を盗んではインターネット速報に一喜一憂していた。

そして待ちに待った土曜日の試合。
決勝戦でないのが残念だったけど、そんなのはどうでもよかった。
球場に行けるということだけでうれしかった。
そして何より第一シードの重圧を背負いながら
準決勝まで勝ち進んで生の試合を見る機会を作ってくれた
母校の野球部の選手たちに感謝したかった。

1回表、1点を先制。
その後は両校エースが踏ん張る投手戦。
しかし今日は母校のエースの調子が余りよくない。
中盤、連打を浴び逆転される。1対2。

もちろん勝って欲しかった。
けれど、僕は試合の途中から勝敗云々よりも、
今年もこうしてこの場にいられるだけで幸せな心地だった。
もう卒業して5年になるというのに臆面もなく
ブラスバンドの席に陣取る。
見れば懐かしい先輩や後輩たちの顔もちらほら。
話し始めれば中学高校時代にタイムスリップ。
みんな仕事や学生生活でいろいろ用事もあるはずなのに、
何かに引き寄せられるかのようにこの時期は
この場に引き寄せられてしまうのだろう。
「仕事中、インターネットでずっと速報見てたよ」
ほら、やっぱり同じだ。

8回表、一番バッターが出塁。
盗塁。犠打成功。1死三塁。
応援席のボルテージは上がりっぱなし。

犠牲フライ、同点。2対2。
肩を組み、応援歌を腹の底から張り上げる。
炎天下楽器を吹いたり大声を上げるものだから
心臓が苦しくなり頭がくらくらしてくる。
ふと目をつぶり、思い出す。
「あの頃とまったく一緒だ」。

延長戦。10回裏。
一死二塁。相手校サヨナラのチャンス。
マウンド上に選手たちが集まる。
えもいわれぬ緊張感。
ただ、念じるだけだった。

次の瞬間、鋭い金属音とともに外野手が背走し始めた。
そして、打球は必死に走る外野手の間を抜けていった。

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試合後は笑顔だった。
久しぶりに顔を合わせた先輩後輩の近況を聞く。
それぞれの状況下でそれぞれが頑張っている。

一つの「夏」が終わった。
けれど、まだまだ夏は続く。
吹奏楽部にはコンクールがあるし、
社会人は仕事、学生は思い思いの夏休み。

時が経っても変わらないものというのはきっとあるはずで、
いつも僕らを待っていてくれている。
これでまた1年間はおあずけだけど、それでいい。
来年の7月を楽しみにしている。

そして、もし出来ればツタの絡まった浜風の強いあの球場で
アイボリーホワイトにエンジのユニホームが所狭しと駆け回る姿を
またもう一度見たい。住み慣れた都の西北を離れて、
都会の真ん中で仕事に追われる身になったけれども、
僕は心の片隅で強く、強く、そう願っている。


おじゅん |MAILHomePage

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