エンターテイメント日誌

2006年09月09日(土) うどんをめぐる冒険 <前編>

今回のタイトルを村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」風にしたのには理由がある。村上さんも紀行文集「辺境・近境」(新潮文庫)で讃岐うどんを取り上げているのである。それも「中村」とか「がもう」とかかなりディープなうどん屋(製麺所)が紹介されているのだ。これらの店は当然映画UDONにも登場する。

さてまずはうどん巡りのバイブルであり、香川県で「ハリー・ポッター」シリーズやシェイクスピア、夏目漱石よりも読まれている本「恐るべきさぬきうどん」のことから話さないといけないだろう。全てはここから始まったのだ。

「月刊タウン情報かがわ」に連載されていたコラム「ゲリラうどん通ごっこ」(通称:ゲリ通)が一冊の書物にまとめられ、地方出版社であるホットカプセルから単行本「恐るべきさぬきうどん」として出版されたのは1993年04月のことである。当時筆者は仕事で香川県高松市に住んでいて、たまたま書店で平積みにされていたこの本を手に取り「面白そうだな」と購入した。だから今でも手元に初版本を所有している。

まず読み物としての面白さに魅了された。語り口が巧いのである。本の中に登場する麺通団なる怪しげな集団の団長がホットカプセルの社長・田尾和俊という人であり、田尾さんが後にうどんブームの仕掛け人として一躍脚光を浴び、その功績が認められて四国学院大学に(カルチュラル・マネジメント学科の)教授として招聘されようなどとはその当時、知る由もなかった。 

そして読めば当然そこに紹介されているうどん屋を探訪したくなる。まるで道に迷ってくれと言わんばかりに簡略化された地図を頼りに休日ごとに車で探し回った。そうやって今ではすっかり有名になってしまった「山越」「谷川米穀店」「がもう」「中村」「山内」などを発見していったのである。

打ちのめされた。たった一玉80円とか100円でこれだけ美味いうどんが食べられるのか。カルチャー・ショックと言っても過言ではなかった。こうして<うどん巡り>が筆者の趣味のひとつとなったのである。

それからうどんブームがどのように広がっていったかは映画UDONに描かれている通りである。ウィキペディアのここも参考になるだろう。

釜玉発祥の地、「恐るべきさぬきうどん」誌上でS級指定店として認定された「山越」のある綾上町へは高松市内から車で約1時間くらい掛る。筆者が初めて訪れたのは土曜日の正午前くらいだったろう。簡素な製麺所だった。そのとき並んでいたのは数人程度、テーブル席に座れるのは10人程度だった。しかしそれから訪問するたびにどんどんお客さんの数は増えていき、最終的には朝9時半に到着しても100人くらいの行列が出来ているという有様。店舗は改装され客席数も膨れ上がり、最初は車を路上駐車していたのが、専用駐車場が近辺に数箇所出来た。それでも収拾がつかず警備員まで雇う始末。GW中は待ち時間が最長2時間、車の列が延々2キロも続いたという。日本庭園やお土産物売り場なども増築され、セルフのソフトクリームコーナーまで出現、今では店内に安っぽい有線放送まで流れて一大観光地と化した。

そしてある日のこと、狂騒の「山越」を訪れたとき筆者は愕然とした。明らかにうどんの味が落ちている!!大量生産するようになった結果、どこか製麺工程で手抜きをし出したに違いない・・・。その日が「山越」を訪れた最後となった。今から2年位前の話だ。この筆者が体験したのと同じような現象が映画UDONでも描かれている。

ただ、映画で描かれたのと現実が異なる点は、映画でのさぬきうどんブームは1年足らずで去ってしまうが、実際は10年以上たった今でも続いていることだ。というか熱気は加速する一方である。

映画の感想は次回に。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]