エンターテイメント日誌

2005年10月22日(土) 漫画の映画化、日本の場合。<タッチ><NANA>

漫画を実写映画化して成功する例は極めて少ない。アメコミについては今度<シン・シティ>を取り上げる際に分析するとして、今回は日本の事情だ。史上最悪といわれる「デビルマン」を筆頭に「キューティハニー」「キャシャーン」「あずみ」「鉄人28号」「青い春」「はいからさんが通る」「花より男子」「みゆき」「姉妹坂」「漂流教室」「めぞん一刻」「ゴルゴ13(主演は高倉健!)」、さらに市川昆監督の「火の鳥(黎明編)」や「シェルブールの雨傘」を撮った巨匠ジャック・ドゥミ監督がフランスで撮った珍品「ベルサイユのばら」LADY OSCARなど死屍累々たる惨状である。

日本の漫画を原作とした映画化で成功したと言える例は「少年時代」「ピンポン」「月光の囁き」、韓国で映画化された「オールド・ボーイ」、そしてキネマ旬報ベストワンに輝いた「桜の園」くらいしか思い浮かばない。あと筆者は個人的に金子修介監督が萩尾望都の書いた「トーマの心臓」を下敷きにして撮った「1999年の夏休み」(原作者了承の上で萩尾望都のクレジットなし)も静謐で偏愛しているのだが。

小説よりも漫画の映画化の方が困難なのはやはり原作の時点で物語だけではなく、絵としての具体的なイメージが既に提示されているからだろう。登場人物の容姿のみならずそのファッションまでファンにはこうでなければならないという固定観念があるから、映画で生身の役者が演じると当然不満は募る。また紙の上で展開される物語なので想像力を羽ばたかせた、すなわちリアリティには乏しい作品も当然多い。だから実写になるとそこに齟齬が生じ違和感が付きまとうのである。成功した例を見ると、やはり原作自体が現実に即した物語であることが殆どである。

さて、映画「タッチ」の評価はD+。プラスが付いているのはひとえにヒロインが長澤まさみだからという理由以外にはなにもない。映画自体はお粗末の一言。とにかく監督の犬童一心と脚本の山室有紀子のどちらにもあだち充の原作に対する敬意、愛情が感じられないのが致命的である。盛り上がらなければならないここぞという場面で映画自体が失速して場が白ける。どうして達也が野球部に入ることを母親は反対するのか?野球部の部員は何故入部当初、達也に冷たく接するのか?はたまたクライマックスの試合の時に浅倉南は何故に最初から球場にいないのか?・・・もうさっぱり訳が分からない。そういう設定自体に何の意味もないのである。一体全体貴女は何がしたかったんだ、山室有紀子?

一方、映画「NANA」は恐らく21世紀で最初の女性映画の傑作ではなかろうか。評価はB+。現在と過去が交差する脚色が素晴らしい。「NANA」は一言で言えば<野良猫のように気ままに、そして誇り高く生きる女の子と忠犬ハチ公みたに人懐っこくて可愛い女の子の友情物語>である。女同士の友情ものといえば最近では「下妻物語」があるが、あのハードボイルドな味わいに比べると「NANA」は少しウエットである。つまり「下妻物語」のふたりは我が道を行くタイプで独りでも生きていけるが、「NANA」のふたりはお互いがお互いを必要としている関係である。そこが筆者が女性映画だという所以である。この違いは「下妻物語」の原作者も脚本家も男なのに対し、「NANA」の原作者矢沢あいも(共同)脚本の浅野妙子(「ラブ ジェネレーション」「神様、もう少しだけ」)も女性であることと無縁ではあるまい。男には決して理解できない、女にしか書けない細やかな情感が映画全編に溢れていて見応えがあった。

宮崎あおいという女優と初めて出会ったのは大林宣彦監督の「あの、夏の日 ーとんでろ じいちゃんー」(1999)である。当時まだ13歳くらいだろう。しかし、あの作品では彼女の痛々しいヌードばかりが強烈な印象として残り、いくらなんでも大林さん酷すぎる、幼気な少女を何の必然性もなく脱がすなんて余りにも可哀想だと想った。この映画については彼女としても消し去りたい記憶なのだろう。宮崎あおい公式ホームページにも一切触れていない。

彼女が女優としての頭角を現したのはナント3大陸映画祭で主演女優賞を受賞した塩田明彦監督の「害虫」である。この女子中学生を主人公としたハードボイルドな傑作における宮崎あおいは、まだ堅いつぼみの頑なで真っ直ぐな少女という印象であった。撮影時15歳くらいの頃か。3年前に筆者が書いた「害虫」のレビューはここをクリック

そして「NANA」の登場である。宮崎あおいは19歳になった。昨年公開され、高い評価を受けた大林監督の「理由」にも一寸だけ出演していたが「NANA」における彼女の変貌ぶりには目を瞠った。まだまだ堅いつぼみだとつい先日まで想っていた少女はいつの間にか大きく花を開き、美しくたおやかな娘に成長していた。もう到底「害虫」のあの少女と同一人物だとは想えない。ただただ唖然とするばかりである。宮崎あおい、本当に素敵な良い女優になった。感動的ですらある。

こんなにきれいになって
りっぱになったのか
きのうまでは小さな子が

日は昇り
また沈み
時移る
やがて朝が来れば
花もすぐ開く


これはミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」のナンバー、"サンライズ・サンセット"の歌詞であるが、本当にこれを唄い出したくなるような気分に、しばし浸ったのであった。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]