エンターテイメント日誌

2004年09月18日(土) 青春映画の輝きと<チルソクの夏>

A級の青春映画として真っ先に想い出す日本映画を列挙してみよう。

今井正監督「青い山脈」
黒澤明監督「わが青春に悔いなし」「素晴らしき日曜日」
木下恵介監督「女の園」
増村保造監督「くちづけ」
鈴木清順監督「けんかえれじい」
大森一樹監督「ヒポクラテスたち」
今関あきよし監督「アイコ16歳」
澤井信一郎監督「Wの悲劇」
中原俊監督「桜の園」
岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
行定勲監督「GO」
磯村一路監督「がんばっていきまっしょい」
曽利文彦監督「ピンポン」
古厩智之監督「ロボコン」
大林宣彦監督「転校生」「時をかける少女」「廃市」「さびしんぼう」「ふたり」「青春デンデケデケデケ」「なごり雪」

さて、「チルソクの夏」はきっとこれらA級の傑作群に入る作品に違いないと筆者は観る前に確信をしていた。が・・・結果は惨憺たるものであった。評価はDである。

このお話は監督の佐々部清オリジナル脚本で、佐々部の古里=下関を舞台としている。映画は冒頭が白黒の画面で、ヒロインの回想となりカラーである1970年代に遡るという構成。まあ「ジョニーは戦場に行った」「初恋のきた道」など、使い古された手法である。とにかくその冒頭の白黒映像が汚いのに閉口した。これ、もしかしたら白黒フィルム使ってないんじゃない?カラーフィルムを色彩調整して安易に撮っているに違いない。

カラーの場面になってもどうも佐々部の演出が凡庸すぎてときめかない。陸上競技の場面でやたらとスローモーションを使いたがる安易さにもうんざりした。物語の終盤、ヒロインが港に駆けつける場面でも、疾走感が全く感じられない。たとえば「がんばっていきまっしょい」の漕艇場面のスピード感溢れる演出と比較すると雲泥の差である。

脚本もダメダメ。4人の女子高生の友情が余りにも嘘っぽい。「がんばっていきまっしょい」も70年代の地方都市を舞台に運動部に情熱を傾ける女子高生たちの物語であったが、あの映画がきらきらと煌めいて、胸を締めつけられるような傑作になったのは実体験に基づく原作があったからだろう。だから登場する女の子たちの心情にリアリティがあるのである。佐々部はオリジナルシナリオを執筆するにあたり、女子高生の心情が全く判らないのであれば主人公を男にするべきだったのだ。下関に住む陸上部の男子校生が姉妹都市である韓国の釜山から親善の競技大会にやってきた女子高生に恋をするという物語でいいじゃないか。

ヒロインが恋に落ちて文通をはじめるその過程も余りにも唐突・無理矢理過ぎていただけない。いくら一目惚れにしたって相手の何処が良かったんだか全く説得力に欠ける。

「陽はまた昇る」「半落ち」「チルソクの夏」と佐々部の作品を観てきて漸く気が付いたのはこの人の作品ってみんな演歌の世界なんだよね。テンポが悪くて人情がベタベタしていて泥臭い。「チルソクの夏」に山本譲二が父親役で出演していることがそれを象徴している。僕には全く合わないや。今後、佐々部の映画を観ることは二度とないだろう。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]