エンターテイメント日誌

2004年06月04日(金) パニック映画の歴史とデイ・アフター・トゥモロー

日本ではパニック映画と呼ばれるジャンルは英語ではDisaster Movieという。これはマカロニ・ウエスタンが英語ではSpaghetti Westernと呼ばれるのに似ている。パニック映画は1970年代前半にハリウッドで隆盛を極めた。

パニック映画の走りは飛行機を舞台とした「大空港」(1970)だろう。そして真っ逆さまに転覆した豪華客船からの脱出劇を描く傑作「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)に続く。「タイタニック」(1997)の原点とも言える作品である。「デイ・アフター・トゥモロー」の監督ローランド・エメリッヒはパニック映画の中で「ポセイドン・アドベンチャー」が一番好きなのだそうだ。そして1974年の「大地震」があり、同年に公開された「タワーリング・インフェルノ」でクライマックスを迎える。20世紀フォックス(原作はT・N・スコーシア&F・M・ロビンソンの'The Glass Inferno')とワーナー・ブラザース(原作はR・M・スターンの'The Tower')が別個に企画していたビル火災を題材とする映画を、競合するよりは合作にしてしまえ!とばかりに二大映画会社が組んだ掛け値なしの超大作である。その後火災映画としては「バック・ドラフト」(1991)が登場するのだが、本物の炎の迫力は到底「タワーリング・インフェルノ」に及ばなかった。「タワーリング・インフェルノ」以降衰退したパニック映画はデジタル技術の進歩と共に復活し、竜巻ものの「ツイスター」(1996)や隕石衝突による地球滅亡の危機を描く「アルマゲドン」「ディープ・インパクト」(共に1998)等が登場した。

余談だが現在も「ハリー・ポッター」シリーズやスピルバーグ映画で大活躍の映画音楽の巨匠、ジョン・ウイリアムズは「ポセイドン・アドベンチャー」「大地震」「タワーリング・インフェルノ」と三本のパニック映画の音楽を担当している。「ジョーズ」や「スター・ウォーズ」の前に彼はパニック映画で一世風靡したのである。

往年のパニック映画にはれっきとしたルールがあった。まず「グランド・ホテル形式」であること。「グランド・ホテル」は1932年に公開されたハリウッド映画でその年のアカデミー作品賞を受賞した。ベルリンのホテルを舞台としてそこに集まった人々のそれぞれの人生模様を俯瞰する群像劇であり、この手法を踏襲する映画は「グランド・ホテル形式」と呼ばれるようになった。だから「グランド・ホテル形式」には一定の主人公はいないし、オール・スター出演の映画を創りやすいのでパニック映画にぴったりだったのだ。

もう一つのルールはパニック映画の要所要所でそれぞれの登場人物たちは人生の岐路に立たされる。右に進むか左へ進むか。あるいは進むかその場に留まるのか。そして正しい選択をしたものは助かり、誤った選択をしたものは命を落とす。その選択の課程に措いてそのひとの人間性・人生観が垣間見られる仕掛けになっているのである。

「デイ・アフター・トゥモロー」の筆者の評価はB-。上述したパニック映画の伝統に則っているところがマンネリとはいえ懐かしく、心地良く観ることが出来た。そして地割れあり、竜巻あり、洪水や吹雪の遭難もの、乱気流に巻き込まれた飛行機や、おまけに難破船まで登場して正にパニック映画の集大成。そのサービス精神旺盛なてんこ盛り状態には嬉しい悲鳴を上げずにはいられない。ただしオオカミは余計だったけれど(笑)。ニューヨークを襲う大洪水の場面など大迫力の特撮技術にも大いに拍手を送りたい。CGの進化は凄まじい。まあ、突っ込みどころ満載のストーリーではあるが、所詮エメリッヒという「星条旗万歳!」と叫んでアメリカ合衆国に媚びを売り続けるドイツ野郎は、ほら吹き男爵というか「ビッグ・フィッシュ」のおやじみたいなはったりをかまして大風呂敷を広げる奴だから余り腹が立たない。少なくとも彼が監督した「インディペンデンス・デイ」やハリウッド版「ゴジラ」よりはこちらの方がよっぽど面白かった。ただし、グランド・ホテル形式を踏襲しているとはいえ、スター不在の安っぽい配役はマイナス点である。

今回ヒロインを演じたエミー・ロッサム、なかなか可愛い女優さんで安心した。彼女は既に撮影が終わっているミュージカル映画「オペラ座の怪人」(北米ではクリスマス公開)でヒロイン:クリスティーヌを演じる。彼女なら期待できそうである。凄い歌唱力だとの評判なので今から大いに楽しみである。

最後に売国奴のドイツ野郎(=エメリッヒ)にちょっとだけ突っ込みを入れておく。足の傷が化膿して敗血症にまでなったらペニシリン一本注射したくらいじゃあんなに簡単に治らないだろ?傷口の洗浄消毒・切開排膿(うみを切って出す)が不可欠だし、場合によって壊疽の拡大を防ぐために下肢切断しなければならないことだって考慮する必要がある。映画にメディカル・アドバイザーくらいつけたらどうなんだ?予算がなかった訳ではアルマーニ、もとい、あるまいに。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]