エンターテイメント日誌

2004年01月10日(土) 今年期待の新作映画/宮部みゆき原作「理由」

今年は沢山のミステリ小説の映画化が進行中である。現在公開中の横山秀夫原作「半落ち」、そして殊能将之原作「ハサミ男」、東野圭吾原作「レイクサイド マーダーケース」、京極夏彦原作「嗤う伊右衛門」さらに大御所高村薫の「レディ・ジョーカー」などである。またミステリとは言い難いが、こんな面白い小説は十年に一作巡り会えるかどうかだろうと言っても過言ではない、恐るべき冒険小説の大傑作!福井晴敏の「終戦のローレライ」映画版はまもなくクランクインし、2005年に東宝系で公開予定である。「終戦のローレライ」についてはいずれまた語らねばなるまい。

そんな中で高村薫、桐野夏生と並び日本三大ミステリ女王のひとりである宮部みゆきの小説「理由」が映画化された。メガフォンを執るのは大林宣彦監督。撮影は既に終了し現在編集中。WOWOWで今年の4月に放送され、夏以降に劇場公開も予定されているという。なんと台詞のある登場人物が107人もいて出演者は現在判っているだけでも風吹ジュン、南田洋子、小手川祐子、宮崎あおい、裕木奈江、伊藤歩、小林聡美、赤座美代子、根岸季衣、菅井きん、渡辺えり子、村田雄浩、小林稔侍、石橋蓮司、岸部一徳、渡辺裕之、片岡鶴太郎、柄本明、ベンガル、勝野洋、峰岸徹、大和田伸也、立川談志、加瀬亮など錚々たるメンバーである。「理由」映画化についての大林監督の決意表明はこちらに詳しく記載されている。

宮部みゆきの小説はこれで3作目の映画化である。金子修介が監督した「クロスファイア」の出来はなかなか良かった。矢田亜希子演じる陰のあるヒロインが魅力的だったし特撮の完成度も高かった。しかし、森田芳光が脚本・監督した「模倣犯」は酷かった。この小説の主題ー現在の日本では犯罪事件において加害者の主張にスポットライトが当てられ加害者の人権ばかりが主張されて、被害者やその家族の人権や心のケアが蔑ろにされているのではないかという作者の問いかけが映画ではスッポリと抜け落ちてしまい、ラストの改悪はもう全く意味不明。これを独善と呼ばずして何と言おうか?さすがにこれには宮部みゆき本人も納得できなかったようで、彼女のファンも激怒している。そのあたりの詳しい経緯はここのサイトを見るとよく判るだろう。

実は直木賞受賞作である小説「理由」の評判は宮部みゆきファンの間では芳しくない。ファンの人気投票でも圧倒的に評価が高いのは山本周五郎賞を受賞した傑作「火車」であり、「理由」は15位にランクされている。僕も正直余り好きな作品ではない。現代社会に鋭いメスを入れその病巣をえぐり出す手腕の確かさ、完成度の高さは認めるがルポルタージュ風の客観的記述法が宮部さんらしくないし、最後に明かされる真相が余りにも救いがないからである。大林監督の作風にも合っているとは想えない。むしろ大林監督なら「火車」や「蒲生邸事件」などの方が相応しいのではないか?しかし、意外な組み合わせだからこそむしろ何か想いもかけないような新鮮な傑作が生まれるのではないかという期待感もある。これは大きな賭である。そして大林監督ならきっとそれに応えてくれるだろう。願わくば今度こそ宮部さんが納得し、ファンからも「こいつは許せん!」と言われないような映画に仕上がりますように。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]