エンターテイメント日誌

2003年11月19日(水) テレビドラマの黄金期と阿修羅のごとく<後編>

四人姉妹を描いた物語はいくつかあった。今まで三度映画化された「若草物語」とか、大林宣彦監督が映画化した「姉妹坂」(原作は少女漫画)とか。ポッキー四姉妹物語などという代物まで存在した(笑)。

しかし、中でも最も強力な面々が揃いも揃ったのが「阿修羅のごとく」である。テレビで四姉妹を演じたのが上から加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン。いやはや壮観である。よくもこれだけ芸達者で個性的な女優が集まったものだ。これも向田邦子の人徳だろう。

またテレビ版で視聴者に痛烈な印象を焼き付けたのがそのテーマ曲である。300-400年前のトルコの軍楽「ジェッディン・デデン(祖先も祖父も)」、これはテレビ版の演出を手掛けた和田勉が1973年にトルコ・イスタンブールを取材中、街中たまたま録音したものだそうだ。えっ!聞いたことないって!?それはお気の毒に。では貴方にだけ、試聴できるサイトをこっそり教えてあげよう。まずここをクリック。そして画面左側の'Ceddin Deden'と書かれたところをクリックしてDownloadすれば良い。ただしMP3プレーヤーが必要。

だから筆者が「阿修羅のごとく」が今回映画化されるにあたり、最も心配だったのは次の二点である。まず第一にテレビ版に匹敵するだけの華のある女優が揃えられるのか?そして、「ジェッディン・デデン」に匹敵するインパクトの強い音楽を見つけられるのか?ということ。

蓋を開けてみると・・・まず映画版で長女と次女を演じた大竹しのぶ、黒木瞳はテレビ版と互角の勝負だった。三女、四女は明らかにテレビ版の勝ち。映画で三女・滝子を演じた深津絵里も好演しているのだが、相手が悪すぎた。なってったってあの、いしだあゆみだぜ。敵うわけないよな。

テレビでは次女を演じていた八千草薫は今回母親役で、これは正に<昭和の女>そのものを体現していて心に残る名演技だった。また加藤治子は映画でナレーションを担当。これも心憎い配慮といえるだろう。あと、長女が不倫する相手、料亭の主人とその妻は映画版の坂東三津五郎と桃井かおりの勝ち。意外だったのは木村佳乃。清純派で売っている彼女が、まさかこのような愛人役がはまり役だとは想像だにしなかった。これは今回の大きな収穫だった。逆に映画版で駄目だったのが探偵役の中村獅童。彼の神経質そうな演技はあからさまにテレビ版の宇崎竜童のそれを模倣している。もっと別な役作りの仕方があったのではなかろうか?映画「ピンポン」でのドラゴン役が素晴らしかっただけに残念だった。

また、トルコの軍楽に対抗すべく、森田芳光監督が選んだのが1970年に録音されブリジット・フォンテーヌが唄った「ラジオのように」というフレンチ・ジャズ。これが不思議なことに作品世界に見事にはまった。森田マジックと言えるだろう。

最後に筒井ともみの鮮やかな脚色に触れねばなるまい。テレビでは1話約70分、全6話からなる物語からエッセンスを抽出し2時間15分に要領良くまとめた手際の良さは無論のこと、新聞に投書したのは誰かという謎がテレビ版では第2話で明らかになるところを、映画ではそれを最後の方まで引っ張って、第3話での墓参りのエピソードを映画のエンディングに持ってきた大胆な改変は大正解といえるだろう。映画オリジナルの台詞にも女性らしい繊細さが光る。さすが第14回向田邦子賞を受賞しただけのことはある。

蛇足だが、第5回東宝シンデレラである長澤まさみチャンのは今回、余りにも端役すぎるよなぁ。あれじゃちょっと可哀相。それにしても彼女が弟と正月に遊んでいる「ラジコン」「ロボコン」という掛け合い、ありゃ一体どういうルールのゲームなんだ!?まぁ、笑えたけれど。


 < 過去の日誌  総目次  未来 >


↑エンピツ投票ボタン
押せばコメントの続きが読めます

My追加
雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]