エンターテイメント日誌

2003年07月14日(月) マトリックス×ジャパニメーション

「マトリックス」という映画世界がいかに日本のマンガやアニメーションの影響を受けているかについては6/7の当日誌(←クリック)にて詳しく述べた。さて、ようやくそのアニメとマトリックスとの融合体(フュージョン)である「アニマトリックス」のDVDをレンタルして観る機会を得た。結論から言おう。予想を上回る出来映えに心底驚いた。

「アニマトリックス」は9のエピソードから構成されている。

1.ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス
フルCG作品である。なんだかTVゲームみたいなノリだなぁと想って観ていたら監督やスタッフがあの悪名高い映画版「ファイナルファンタジー」を撮ったチームだった。FF映画版を製作したスクウェアは製作費157億円を費やし全米2649館で公開。しかし蓋を開けてみると惨憺たる興行成績で130億円を超える赤字を抱える結果となった。結局その借金返済の為になりふり構っていられないスクウェアが、ウォシャウスキー兄弟の下で隷属状態に置かれて作り上げたのがこの作品だ。たしかにCGのクオリティは高い。特にホバークラフトとセンティネル(イカ型ロボット)の攻防は映画本編もフルCGなので、その出来に遜色ない。まぁ、お話し自体は大したことないのでCG技術革新の見本市みたいなものか。

2.3.セカンド・ルネッサンス パート1&2
3DCGとセル画アニメーションが違和感なく見事に共存しているのに感心した。マトリックス前史が分かって大変興味深い。前田真宏監督はマトリックスの世界に大胆にナチスのホロコースト、イスラエル建国、カンボジア大虐殺、天安門事件などの近代史をメタファー(隠喩)として挿入し、見応えの有る作品に仕上げている。

4.キッズ・ストーリー
渡辺信一郎監督はラフなスケッチ画をアニメートするような感覚で、人物のフォルムが崩れそうでいてその一歩手前で踏みとどまったような、独特の表現技法を編み出した。それが仮想現実の世界にピッタリと調和してて素晴らしい。

5.プログラム
ウォシャウスキー兄弟が私淑している川尻義昭監督作品。僕の一番のお気に入り。スタイリッシュでシャープな絵、鮮やかな色彩感覚で描かれた戦国活動絵巻。

6.ワールド・レコード
川尻さんの弟子、小池健監督による躍動感溢れる個性的な絵のタッチが印象的。

7.ビヨンド
ありふれた日本の風景に垣間見られる超現実的時空。この森本晃司監督の作品を観ながら、押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」を連想したのは決して偶然ではないだろう。押井監督のアニメ「攻殻機動隊」みたいなのを実写で撮りたいんだとウォシャウスキー兄弟が持ち込んだ企画が「マトリックス」だったとDVDの特典映像で製作者のジョエル・シルバー自らが語っているくらいだもの。夢から醒めてもまだ夢の中にいるような、不思議な肌触りの残るエピソード。

8.ディテクティブ・ストーリー
ふたたび渡辺信一郎監督登板である。しかし「キッズ・ストーリー」とは全くスタイルの異なり、モノトーンでハードボイルドな気怠い雰囲気の漂う世界。その変わり身の早さにただ唖然とするばかり。巧い!

9.マトリキュレーテッド
日本人の作品でなくなると、途端に質ががたりと落ちる。キャラクター・デザインがアメコミみたいで馴染めないし、サイケデリックな世界を描いてはいるが、どうもその色彩感覚にセンスを感じられない。一番詰まらなかった。

しかし、前田監督は担当したエピソードを完成するまでに1年5ヶ月を費やし、森本監督に至っては2年以上かかったというのだから、なんとも贅沢なプロジェクトである。

最後に、メイキングなど特典映像が充実していることも特筆したい。特に日本の漫画やジャパニメーションの歴史を紹介するドキュメンタリーが面白い。アメリカ人の「おたく」達が熱い想いを語っている姿が微笑ましい。彼らにとっても手塚治虫がGodなのだということが良く分かった。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]