エンターテイメント日誌

2003年04月18日(金) 和製ミュージカルの金字塔。オケピ!

「シカゴ」の登場で、にわかにミュージカル映画ブーム再燃の兆しが見える今日この頃だが、ミュージカルというのはあくまでアメリカの文化である。1970年代以降、「キャッツ」「オペラ座の怪人」等のロイド=ウェバー作品や「レ・ミゼラブル」の登場でロンドン発信のミュージカルが盛んになったが、たとえばフランスやオペラの盛んなイタリアでさえ、なかなかミュージカルは根づかない。

1963年9月、菊田一夫演出により「マイ・フェア・レディ」が日本初演されて以降、我が国でも盛んにミュージカルが上演されるようになった。しかし、どうしてもミュージカルは借り物の文化であり、日本人が演じることに違和感を感じることがしばしばあるという事実は否めない。真の意味でミュージカルが日本に定着したと言える段階には未だ至っていないのではなかろうか?

和製のオリジナル作品を創ろうという試みは今まで真剣になされてきた。しかし例えば欧米ミュージカルを多数上演している劇団四季のオリジナル作品「李香蘭」や「夢から醒めた夢」「ドリーミング」などは酷い代物である。特に祖父母の世代の日本人を罵倒し、中国共産党を褒め称える<自虐史観ミュージカル>「李香蘭」には呆れ果てた。四季のオリジナルが駄目な理由はまず第一に演出家の浅利慶太氏が中心になって執筆されている台本の出来が極めて悪いこと(ウィットの欠片もなく、徹頭徹尾説教臭い)、そして音楽を「津軽海峡・冬景色」の三木たかしさんが担当していることにある。演歌の作曲家にミュージカルをさせてどうする!?浅利さんには根本的に音楽のセンスが欠如しているのであろう。芝居はまず台本ありき。そしてミュージカルは音楽が命である。

宝塚歌劇は例外として、僕が今まで観た和製ミュージカルで秀作だなぁと感心したのは今年も再演が予定されている音楽座の「星の王子さま」と、映画化までされたオンシアター自由劇場の「上海バンスキング」である。しかしこれらの優れた作品も、たとえばブロードウェイで上演して勝負出来るかと問われたら残念ながら心もとない。

そんな状況の中、彗星の如く現れた大傑作ミュージカルが三谷幸喜さんの「オケピ!」である。まず勿論、巧みに伏線を張り巡らして客席を爆笑の渦に巻き込む台本が素晴らしい。個性的な登場人物ひとりひとりが生き生きと描かれ、見事なアンサンブルを醸し出している。舞台設定をミュージカル上演中のオーケストラ・ピットにもってきたその卓越した発想だけで、既にこの作品の成功は保証されたようなものである。正にミュージカルに相応しい題材ではないか。(ちなみに東京以外の劇団四季の専用劇場にはオーケストラ・ピットがない。名古屋・京都・大阪・福岡の四季劇場で上演されるミュージカルは全てテープによるカラオケ上演である。果たして四季に、ミュージカルに対する真摯な<愛>はあるのか??)

オケピ!の音楽を担当するのはテレビ「王様のレストラン」や映画「ラヂオの時間」「みんなのいえ」などで三谷さんとコンビを組み卓越した才能を発揮してきた天才、服部隆之さん。三谷氏曰く「日本のジョン・ウイリアムズ」である。悪かろう筈がない。もう序曲が始まっただけでワクワクする。服部さんはさらに劇場で(本物の)オーケストラ指揮も担当されている。僕は3年前の初演も観ているが、その時は「音楽よりも台詞が多く、これはミュージカルというよりも音楽のあるストレート・プレイだ。」という批判があったのだが、今回の再演では5曲も新曲が増えて、よりミュージカルらしくなった。

初演で主人公を演じた真田広之さんは体育会系であたふたと走り回る指揮者を元気いっぱいに好演されていたが、ハリウッド映画「ラスト・サムライ」撮影のため、真田さんが再演に参加出来なくなったのは至極残念だった。しかし今回指揮者役に大抜擢された白井晃さんは異なるタイプの指揮者像を作り上げられていて独特の味わいがある。

観た者を全て幸福な気持ちにさせてくれ、生きる元気を与えてくれる。オケピ!はそんなミュージカルだ。僕は予言しよう。遅くとも2010年までにこの作品はブロードウェイで上演され、演劇界の最高の名誉=トニー賞を受賞するだろう。その時壇上に上がる三谷さんの雄姿を愉しみに、これからの日々を過ごしていこうか。

さて、そのオケピ!が4/20にWOWOWで生中継される。しかも最高に盛り上がるだろう東京千秋楽だ。これを見逃す手は無い。WOWOWに加入している者たちよ、悪いことは言わない。午後3時からはテレビの前にかじりつけ!


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]