エンターテイメント日誌

2002年12月29日(日) ハンガリー映画の現在 + 予告

ナチスに翻弄される舞台の名優を題材にした1981年のハンガリー映画「メフィスト」はアカデミー外国語映画賞を授賞した力作であった。

その後時代は大きく動いた。ハンガリーは最早共産党政権ではなくなり、国民は自由を勝ち取った。そして1999年に「メフィスト」の監督イシュトヴァン・サボーが世に問うたのが「太陽の雫」である。これは20世紀という時代を激動のハンガリーで生き抜いた、あるユダヤ系一家の親・子・孫三代にわたる壮大な叙事詩である。レイフ・ファインズが一人三役で力演している。

確かに見応えのある作品なのだが、なにしろ登場人物が長い年月とともに世代交代していくので、誰が主人公ということもなく観客が感情移入しにくいのがこの映画の最大の難点である。そういう意味ではクロード・ルルーシュの「愛と哀しみのボレロ」を連想した。映画製作者の意図としては本作の真の主役はハンガリーという国家の苦難の近代史であり、ユダヤ人の受難史ということなのだろう。

しかしその意図を十分に汲んだ上でも、どうしても釈然としない違和感が残るのである。この映画はオーストリア/カナダ/ドイツ/ハンガリーの合作である。つまり現在のハンガリーではこの3時間に及ぶ大作を撮るだけの製作費を到底捻出することが出来ない経済状況にあるのだろう。だから外国の資本に頼よることになる。さらに映画の世界的マーケットを考えた場合、ダイアログは英語で撮らざるを得ない。主役のレイフ・ファインズをはじめ、レイチェル・ワイズやウィリアム・ハートなど主要なキャストは英米の俳優たちで占められている。自分の祖国ハンガリーを描く為に外国に全てを依存し、(ファウストがメフィストフェレスにそうしたように)魂を売らざるを得ないイシュトヴァン・サボーの心情を考える時、余りにも切なくて胸が痛む。

余談だがレイフ・ファインズは「シンドラーのリスト」ではナチスの将校を演じていたのに、今回は迫害を受けるユダヤ人役というのもなんだかなぁ・・・


予告:大晦日の日に今年度の筆者の選ぶ映画ベスト20+@を公表する。乞うご期待。


 < 過去の日誌  総目次  未来 >


↑エンピツ投票ボタン
押せばコメントの続きが読めます

My追加
雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]