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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2005年01月26日(水) --

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『あなたがいるから』

☆海には思ったほど魚はいない。

角川書店のBOOK PLUS 海外の現代小説がラインアップされている。 ペイパーバック本は見るからにおしゃれで、 重さもライトな装幀。 カバーをはずすと、まるっきり洋書という感じ。 新潮クレスト・ブックスと比べると、 内容も値段も、重さも、実際、かなりライト。

ハンナ、エマ、リオニー。 エジプト旅行で偶然出会い、意気投合した三人。 アイルランドに帰ってからも、その友情は続く。 それぞれ、いろいろな問題を抱えるが、 それはそのまま現代女性の悩みそのもの。 未婚、離婚、不妊、不実な夫(恋人)、親の痴呆、 思春期の子供、仕事のキャリアe.t.c. お互いに励まし、支え合いながら、 やがて、困難を乗り越え、幸せを手にする。 (原題は“Someone Like You”)

うまく出来すぎていると言えば、そうなんだけれど、 日常に近いところで話が展開するので、リアリティもあるし、 また、それぞれが身近に幸福を見つけるから、 共感もできるし、読んでいてほっとできる。 そういう小説だから、 現実感を持って胸に響く言葉がいくつか残った。

「海には思ったほど魚はいないものよ。」 これは、離婚経験者であるリオニーに、 母親が言った台詞。 「真実の愛の信奉者」であるリオニーは、 10年経っても、まだ、真実の愛にはたどり着けない。 いや、本当に。 「海には思ったほど魚はいない」 この言葉は、「愛」云々に限らず、 そうだなあと、次があるはずと見送った、 “チャンスの前髪”の数々が思い浮かぶ。

さらに。 ハンナの母の娘への一言。 「直せぬものは我慢せよ。」 なるほど、と。 この台詞が語られた状況とは全然違うけれど、 職場のあれこれのストレスを思い浮かべながら、 確かに。 「直せぬものは我慢」するしかない。 当たり前のことかもしれないけれど、目から鱗が落ちたような感じ。

それにまた。 不妊に悩み、友人の妊娠が喜べず、 精神的に追い込まれるエマが、知らず知らずの間に、 職場でも嫌な上司になってしまっていた時、 不意に自分自身、そのことに気づく。 そして、 「この頃わたしは仕事をきちんとこなしていないのではないでしょうか。わたしは一緒に働きにくい人間になっているのでは?」と、問うのだった。 相手が一瞬言葉を詰まらせたことで、彼女はその問の答えを知る。 そして結局は自分の弱さや苦しみに対峙し、状況を打開しようと踏み出す。 この言葉は、痛かった。 自分自身も、知らず知らずに、 「一緒に働きにくい人間」になっていたらどうしようかと。 そんな時に、こう潔く、自分をリセットできるのかと。

テーマは現代的だけれど、ライトな小説なので、 すぐに読めるし、読後も気持ちが良い。 けれど、やはり、自分の身に置き換えて、 あれこれと、思いが行ったり、来たりする。 心配なこともあるけれど、でもまあ、 良い友達がいるから、何とかなるかと。 そう思ったところが、私の結論だろうか。

この小説の大切なテーマの一つが、 言うまでもなく、友情だから。(シィアル)


「あなたがいるから」 著者:キャシー・ケリー / 訳:古川 奈々子 / 出版社:BOOK PLUS 角川書店2002

2004年01月26日(月) 『クマのプーさん』
2001年01月26日(金) 『サムシング・ブルー』

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