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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年08月01日(金) --

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『朝びらき丸 東の海へ』

世界の果てを旅したい、という根源的な願望を 児童書ファンタジーの形で「さいごまで」描いた傑作。

戦いに勝ち、平和にナルニアを治めているカスピアン王は、 かつて、父王の友であった7人の貴族が、独裁者の叔父によって 東の海域へと探検の旅に追いやられたことを知り、彼らを探す旅に出る。 船の名は、朝びらき丸(The Dawn Treader)。 またとなく美しいが、小さいと言ってもよい木造船である。

その航海の途中に、人間界から、ルーシィとエドマンドの兄妹、 そして今回初登場の、いとこのユースチスが飛び入りする。 次から次へとあらわれる魔法でいっぱいの不思議の島や奇妙な住人たち、 折に触れ助け船を出してくれるアスランに導かれ、 やがて、とうとう、ついに…という物語。

そういえば、グウィンのゲドシリーズ、「さいはての島へ」もまた、 あてのない果ての海への航海だった。 グウィンは「朝びらき丸」に乗ったことがあるにちがいなく、 そもそも、多島海アーキペラゴという世界観そのものが、 ルイスのナルニア世界にうちよせる海からの息吹から生まれたのではと 個人的には考えている。

ナルニアのシリーズ7冊のうち、 この『朝びらき丸 東の海へ』だけは、他と異質で、 もっとも純粋な冒険ファンタジーと呼べるのではないだろうか。 対峙する切羽詰った善悪の刃はそこになく、平和のうちにナルニアを 離れたカスピアン王と子どもたち、ネズミのリーピチープを はじめとする仲間たちが、まさに、明日は何が起こるだろうと わくわくしながら、ひとつ船で旅をする。

やっかいな災いといえば、人間の少年ユースチスで、 彼はある事件が起こるまでは、仲間たちを裏切り続けていた。 ユースチスとルーシィは、ほぼ対等に主人公であるといってよく、 前半はユースチス、後半はルーシィが精神的なゆれを経験する。 ナルニア人のカスピアンは、乗組員をまとめる王としての 悩みはあるけれども、やはり、人間の子どもたちとは位置付けが 異なっているようだ。

航海の終わり近く、ルーシィがほんの一瞬出会い、 言葉も交わさずに別れた海の少女のエピソードは、 ファンタジーの概念だけではとらえきれないナルニア世界の 奥深さを教えてくれる。これは、すでに彼女が体験した 親友の裏切りへの答えとも受け取れる。

するとふと、魚群のまんなかに、じぶんと同じ年ごろの 女の子がひとりいるのを目にしました。 静かなさびしそうな顔つきの子で、 (略) けれどもルーシィは、その顔を忘れないでしょう。 (略) ルーシィはその子がすきになり、その子もじぶんをすいて くれたのだと信じました。 たった一しゅんかんのあいだに、ともかくふたりは 友だちになったのです。 そして、どこの世界ででも、おたがいに二度と会う めぐりあわせはないものと思われました。 (/引用)

生きているあいだは二度と会えないかもしれない、 けれど、今ここに出会えたことを喜んでいよう。 ナルニアの物語は、そのような出会いを描く物語でもある。 (マーズ)


『朝びらき丸 東の海へ』 著者:C・S・ルイス / 絵:ポーリン・ベインズ / 訳:瀬田貞二 / 出版社:岩波書店1966

2001年08月01日(水) ☆風太郎氏逝く

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