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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年07月29日(火) --

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『魔術師のおい』

ナルニア国の始まりを描く『魔術師のおい』は、 ナルニアの年代順では最初の物語。 第一作として発表された『ライオンと魔女』に登場した 街灯や衣装だんすなどの由来も明かされるため、 やはり物語を楽しむという原点からいえば、 最初に通して読む順序は『ライオンと魔女』から、 としたほうが良いように思われる。

私自身が発表順に読んだからで、年代順に読む場合の面白さ というのもあるとは思うけれど。 ただ、発表順だと、どうしても年代がごちゃごちゃに なってしまう。それも、この世界とナルニアを往き来する 子どもたちの体験する時間のSF的ずれを思えば、 混乱とは呼べないのかもしれないが。

本書では、偉大なライオンのアスランがどのようにナルニアを 創ったのか、そこに居合わせた子どもたちの冒険を通じて、 そして創造の直後にナルニアへ入り込んだ悪、魔女ジェイディスの 傍若無人ぶりとともに描かれる。 一方で全能の神、あるいはキリスト者の似姿としての アスランを描きながら、一方では、決して善に屈しない悪、 他者を受け入れない存在、 我が身がすべての存在が撒き散らす毒をも描く。 タイトルになっている魔術師こと、ディゴリーのおじさんの アンドルーにしても、ひ弱な老人ではあるが、身勝手さは ジェイディスと肩を並べている。

ナルニアの創生を見届ける人間界の子どもたちは、 遊び仲間のポリーとディゴリー。 ディゴリーは、異世界で見つけた魔女をめざめさせ、 人間界からナルニアまで連れてきてしまう。 病気のお母さんを治したいと願い、ときどき話の腰を折って しまうディゴリー少年は、ルイス自身の少年時代を思わせる。 ルイスの母は、ディゴリーくらいの年頃に病死してしまい、 以後、兄との仲間意識には支えられたものの、 情を示さない父との葛藤に長く苦しんだルイス。

ディゴリー少年はアスランに頼まれ、ナルニアの守りとするため、 天空の果樹園に魔法のりんごの実をとりにゆく。 ナルニアより何より、すぐに英国に帰ってこれを食べさせれば、 母親の病が治るかもしれない、という逡巡と、 結果的にアスランによって正しくもたらされた生命のりんごを 食べた母が元気になるくだりは、ルイスの切なる願望と 入り混じって、切なくなる。

ところで私は久しぶりに(三度目?)読み返して、 しごく納得のいったことがあった。 もうずいぶん昔、寝言で友人に「それがあんたのりんごの芯?」と はっきりしゃべったらしいのだが、 その理由が今になってやっとわかった。 私は知った。 「りんごの芯」が、ディゴリーの母が食べた、 ナルニアの守りとなったりんごのものであり、やがてそのりんごの芯が ロンドンに植えられて、魔法はもう失われたけれど、 すばらしいりんごに育ったこと、 そしてその木が、『ライオンと魔女』につながってゆくことを。 (マーズ)


『魔術師のおい』 著者:C・S・ルイス / 絵:ポーリン・ベインズ / 訳:瀬田貞二 / 出版社:岩波書店1966

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2002年07月29日(月) 『グリーン・ノウの魔女』(グリーン・ノウ物語5)

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