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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年03月17日(月) --

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「象と耳鳴り」

☆夢図書ほのぼのミステリ短編集1

恩田陸さんって人気ミステリ作家でもあるけれど、
いわゆる「本格ミステリ」の書き手とは雰囲気が違いますよね。

不可思議としか思えなかった謎が、謎解きによってすとんと日常に着地して、
「おお、そういう事だったのか!」と読者に膝を打たせるのが
「本格ミステリ」なら、描かれる世界が常に何かしら「大きな物語」に
つながっている感覚のある恩田作品は、謎が解かれて着地すべき堅い地面に
着いても、終点らしく感じないのです。

ですから、恩田作品の中で推理好きの血が騒ぐのは本筋よりも、
登場人物達が「日常」の中にいて、「これは何?」とちょっとした
「謎」を感じたとき。
例えば「木曜組曲」や「黒と茶の幻想」等の長篇で、気のおけない仲間達が
提出するような小さな謎の数々。
もしかしたらこうかも、いやいやこういう事なんじゃ、と意外で鋭い意見が
飛び交い、あれよあれよという間にほんの小さな不思議が、思いがけない
「物語」になってしまうあの高揚感。

それが本当に正解かどうかは読者には分かりませんが、そこに紡ぎ出された
「仮説」の美しさ、驚き。
恩田作品のミステリとしての輝きは、こういう小さな場面にこそ本領が
発揮されていると言っても過言ではありません。
だとすれば、こういった「小ネタ」ばかりで編まれた短編集「象と耳鳴り」
のような形こそが恩田ミステリの究極の形なのでは。

宇宙を思わせる曜変天目茶碗、住宅地の中に残された給水塔、
中原中也の詩の一節、アンセル・アダムスの写真、薔薇の廃園、
雨の待ち合い室。
心の琴線に触れる、数々のノスタルジックなモチーフに触発された謎が、
思いもかけない形で解かれる──というよりはやはり、隠された物語が
生み出される過程はなんとも言えぬ心地よさです。

全編通しての案内役は大柄で飄々としたオシャレな老紳士。
あれ?以前お会いしましたよね?末の息子さんはお元気ですか?
お話とっても楽しかったですよ、またお会いしましょうね。
(ナルシア)


「象と耳鳴り」 著者:恩田陸 / 祥伝社文庫

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