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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年09月06日(金) --

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『模倣犯』+『青の炎』

☆切なさの着地点。

昨日は、『模倣犯』から受けた負の衝撃に打ちのめされていた。 しかし、小説の中では、ただ主犯ピースに打ちのめされるだけでなく、 その底のない悪意と闘う人々が互いに手を取りながら 必死に立ち向かっている。

ピースに翻弄されながらも、 かつて愛した者のために、これからもずっと愛し続ける者のために。 そして、自分の信念、私たちの信ずる人間として大切なもののために、 どんなに深く傷つけられても、本当のことを知りたいと、 事件を明らかにしたいと、犯人と対決する。

悲しみに打ちひしがれながらも、その弱さの中から、力を振り絞る。 孫娘を殺され、犯人に弄ばれながらも立ち上がり、 決して、屈することのない有馬義男の姿には胸が打たれる。 事件の第一発見者であると同時に、 自身も残虐な殺人事件の被害者である塚田慎一。 一家殺害事件の唯一の生存者である。 ただ一人生き残ってしまった者としての苦しみを抱えながら、 彼もまたピースが書き続ける悪意の物語に巻き込まれていく。

読後の気持ちは、前回の日記のようにとても重かった。 有馬義男や塚田慎一、彼らを取り巻く周囲の人々。 迷いとまどいながらも、闘い続ける彼らの姿や、 悲しみの淵から立ち上がろうとする塚田少年の姿は、 暗く思いこの小説の中での、大きな救いである。

ただ、下巻の帯にあった「あまりに切ない結末」というのが、 私には分からなかった。 あまりにむごく、あまりに悲しい物語であった。 これ以上に胸が締め付けられるような、 さらに「切ない結末」が待っているのだと、 覚悟を決めてページをめくっていたので、 そういう意味では肩すかしで、「切ない」とはどういうことか、 ついつい、切なさの検証をしてしまった。 でもまあ、これは、主観の相違で、 「切ない」という言葉の受け取り方の違いだから仕方がない。

そんなことを思いながら、 「あまりに切ない結末」という言葉で真っ先に思い浮かぶのが、 『青の炎』(著者:貴志祐介)であった。 こちらも映画化が決定している。 映画化が決定して話題になっていたので、 まだまだ貸し出し中の『模倣犯』の代わりに 図書館で借りて読んだのだ。

高校生櫛森秀一は、家族を守るために殺人を決意する。 ある日突然現れ、家族を芯から怯えさせる酒びたりで ギャンブル狂の義父。離婚をし、彼から逃げ出したはずだが、 義父は家に住みついてしまう。母や妹を守るには、もう 彼を殺すしかない。 少年の怒りは青い炎となり、 心優しくも冷徹な殺人者へと追いつめていく。

これは切なかった。 ストーリーの流れから、物語の着地点は想像がつくのだが、 わかっていても、いや、行き着く果てが分かっているからこそ、 ほんとうに「あまりに切ない結末」であった。

「なぜ人を殺してはいけないのか?」とか、 「どうして人を殺していいと思うのか?」とか、 そんな理屈っぽい思いは出てこない。 『模倣犯』のピースは彼の理性や理屈が殺人を起こす。 けれど、櫛森秀一の場合は、エモーションだ。 そこには、理性や理屈では割り切れない、 理性や理屈をいくら述べたところで、 解決することのできない、複雑で深く激しい、 感情の動きがある。

もっと他に解決のすべはあっただろうに。 確かにあっただろう。 けれど、櫛森秀一には、そのすべはなかったのだ。 家族を守るためには。 何とかしなければという、悲壮な決意。 その思いが、その強いエモーションが彼を殺人へと突き動かした。 家族のために一分のミスもないように、 冷静で計画的な殺人者に。 冷静と衝動。 愛情と憎しみ。 守るために破壊する。 相反する、矛盾する要素が彼をさいなみ、 あまりにも切ない結末へと、彼を導く。

『模倣犯』と『青の炎』 ミステリといっても、全くタイプが違うし、 作者のメッセージも異なる。 比べることもできないし、その必要もないけれど、 連鎖反応的に『青の炎』思い出し、 思いが両方の本を行ったり来たりしているうちに、 (とりとめないといえば、いつものようにとりとめないが) あれこれと考えが深まっていった。

久々に立ち止まって、 現在の世の中に生きているということに、 思いを巡らせた時間であった。(シィアル)


『模倣犯』(上・下) 著者:宮部みゆき/ 出版社:小学館 『青の炎』著者:貴志祐介 / 出版社:角川書店

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