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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年09月03日(火) --

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『時をさまようタック』

初めて読んだナタリー・バビット。 図書館で借りてきた本だから、つい貸し出しの日付を 見てしまう。なんと、6年もこの宝石は読まれていない。 よくあることだけれど。

導入部分は、ミステリの名作めいた薫りを漂わせていて 一気にひきずりこまれてしまう。 児童文学として書かれているが、 生きるとはどういうことか、という永遠のテーマは、 純度を上げれば上げるだけ深まる。 そう、言葉と言葉のあいだに深い裂け目がのぞくから、 これはむしろ大きい人たちのために用意された宝石である。 バビットは、森で不死の家族にさらわれる少女ウィニーの目を通して、 自身の少女時代や、生きて変化しつづける世界を 呼び覚ましながら描いている。

アメリカのオハイオ州に生まれ育ったナタリー・バビットは、 イラストの仕事でも活躍している。 本書の表紙絵がバビットの作品かどうか 確認できなかったけれど、彼女のお母さんも風景画を描いていたという。

読んでいると、不可解な感覚におそわれつづけた。 アイルランドの妖精譚を連想する幻想的な設定でありながら、 秘密を知ったウィニーにとっては、現実そのものが冒険となる。 姿の見えない妖精が奏でるのは、生命として地球に生まれたことへの賛歌。 人間たちはただ、流れのままに、地球をめぐる水のごとく 生きて、そして死ぬ。

ストーリーを細かく書くのは控えるが、 ウィニーがタックの家族にさらわれるくだりや、 あらゆる言葉がささやく「思い出して」とでもいうような メッセージに、ふらふらっとしてしまったのだ。

この世界の真実を覆う、薄くてあやふやなヴェールが、 あたかも風のひと吹きで、揺らいでしまったかのように。 (マーズ)


『時をさまようタック』 著者:ナタリー・バビット / 訳:小野和子 / 出版社:評論社

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