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夢の図書館新館

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-- 2002年08月20日(火) --

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『燃えよ剣』(その2)

徳川幕府が政権を手放した時点で、政治家達の戦いは終っていました。 名人によって鍛えられた優れた道具、新選組は無用となりました。 有用な人材は所属に関わらず、後に新政府でも重用される事となるのですが、 銘刀だけは鍋釜に鋳潰す事は不可能です。

持主である徳川家は危険きわまりない道具を放り出して逃げました。 新選組に感情移入しているとかなり許せない行為なのでしょうが、 私は「最後の将軍」も読んだし水戸にも行ってみたので、 徳川方の事情も納得できます。 というか私自身はやはり穏健倒幕派の系なのでしょう、 「徳川様はよく引いてくださった」というスタンス。

新選組はいわば幕府の崩れかかった時期に乗じて生まれたバブルの一つです。 消える事はわかりきっているのですが、悲憤慷慨して嘆くよりも 道具自身は道具として最後まで働く事に己の存在価値を見い出しました。 司馬先生描く「喧嘩屋」土方は、仲間を失い、追い詰められて 北へ北へと転戦しながら、それでも日々楽しそうです。 もともと身一つ、それさえ使い切ればよしといった突き抜けたシンプルさ。

さて、本編にはその姿を現さないのに『燃えよ剣』の物語の 半身になっている(と私が勝手に解釈している)竜馬は、 一足先に自分の用事を済ませて世界から退場しています。 『竜馬がゆく』で、戦争の指揮官としては天才だけれど 政治家向きではない、といった感じでコメントされていた乾退助、 後の政治家としてしか知らなかったので「へえー」っと思った憶えがありますが、 竜馬にも司馬先生にも割合可愛がられていたのに急にいなくなったなと思ったら、 こちら『燃えよ剣』に途中から敵将として登場していました。

「乾」の名を「板垣」に改めた由来がこちらの戦場で語られて、 キャラクターが作品を移動してきたような雰囲気です。 しかも当時、竜馬を暗殺したのは新選組だと思われていたから、 鳥羽・伏見の戦いはある意味竜馬の弔い合戦でもあります。

正反対といえば、竜馬は自慢の恋人を嬉しそうにあちこち連れ回って 有名なエピソードをいろいろ残していますが、司馬先生はあまり おりょうさん自身には好意的ではないような印象がありました。 一方、『燃えよ剣』では明るい天使のように場を和ませていた 総司君が病で出番が少なくなると、話に華がなくなると思ったのか、 土方の身辺があんまり淋しすぎるためか、司馬先生 幻のように密やかな恋人を土方にプレゼントしています。

意識が大きな外側に向いていて、自分の身体が血を流して 倒れる物だという事をころっと忘れていたように、 突然の死に見舞われた竜馬と、 人斬りプロフェッショナルだけあって、 自分の身体の血をどこで流そうかとずっと考えて、 わざわざ自ら求めて死に赴いた土方、 どちらも「非業の死」と言われますが、やっぱり最期も正反対。 同じところを探すとすれば、二人とも晴々と 「ああ、面白かった」と思っていたかもしれません。

ああ、それから。 和服の懐にピストルを忍ばせた竜馬と、 洋式軍装に日本刀をたばさんだ土方、 可笑しくなるくらい正反対の姿ですが、 二人とも格好良く写真に残っています。(ナルシア)


『燃えよ剣』上・下 著者:司馬遼太郎 / 出版社:新潮文庫 『竜馬がゆく』1〜8 著者:司馬遼太郎 / 出版社:文春文庫 『最後の将軍』著者:司馬遼太郎 / 出版社:文春文庫

2001年08月20日(月) 『さいはての島へ─ゲド戦記(3)』

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