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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年02月26日(火) --

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『幽霊たち』

現代アメリカを代表する作家の、いわゆる ニューヨーク三部作の一作。 といっても、本書をして初めてオースターを 知ったので、シンプルに本書のことだけを受信してみよう。

この短編はどこか戯曲めいていて、 主人公の私立探偵ブルー、ブルーに見張りを依頼した ホワイトという男、見張る相手のブラックという男、 というようにすべては謎めいて記号的。 ベケットの『ゴドーを待ちながら』にも例えられる、 何かが起こりそうで起こらない、いらだちと怠惰。

見張るブルーと見張られるブラックの 1年以上に及ぶ、単調な生活の記録がこの小説の表面を覆う。 覆われた雲の間に、何かが見える。

その単調さのなかで、オースターが鮮烈に浮かび上がらせた光は、 アメリカを代表する作家、 エマソン、 ソロー、 ホイットマン、 ポー。 本物の魂をうかがわせて地上を去った作家たちへの哀悼。 そして、すべての父親への。 どこまでがアメリカ的で、どこからが普遍なのか、 しかしあえてアメリカ的な要素に絞って、作家は光を当てる。

"人生の醍醐味は、本物を見つけ、味わうこと。" これは私の信条なのだが、 オースターは、さらに本物を見つけ、五感で味わうことだけが 人生の目的だと、白日のもとで言い切っている。 私にはそんな風に見えるのだ。

つまり、たとえばブルー、たとえばブラックのような 誰の記憶にも残らぬ平凡な人生にとって。 みずからの生きた証となるのは、 決して理解することなどできない本物のメッセージに触れる、 触れたような気がして何かをなそうと思ったりもしたけれど、 やがて情熱は薄れ、すべての夢が過去の残滓となっていった後にすら、 そういうことを経験したという事実は消えない、 消えないはずなのであるという、 そんな熱烈なラブレターを読んだ思いがした。 (マーズ)


『幽霊たち』 著者:ポール・オースター / 訳:柴田元幸 / 出版社:新潮文庫

2001年02月26日(月) 『地球の長い午後』

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