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夢の図書館新館

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-- 2001年10月30日(火) --

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『バベル-17』

☆詩的なあたりが小難しいスペースオペラ。

私は、「詩」が嫌いなのかもしれないと思った。 詩的なところが、この本のすばらしさなのに。 ずっと、詩は好きだと思っていたが、 それは、誤解だったのかもしれない。

とはいえ、ユニークなこの物語から、 学ぶこと、考えるところも多く、 十分に楽しむこともできた。

言語は思想であり、思想は言葉そのもの。 言葉のないところに、思考はなく、 思考がなければ、それを表すための言葉も必要ない。 言語体系の違いは、 それに属する人々(宇宙人も含め)の、 思考過程の違いをも意味している。

インベーダーの破壊活動に晒された地球(を含む "同盟" の星々)。 インベーダーの侵略の前後に残される <バベル-17>と名づけられた通信。 侵略を防ぐ鍵となる<バベル-17>の解読を命じられた 宇宙的詩人リドラ。 <バベル-17>の謎を解き、 インベーダーから"同盟"を守れるのか?

スペースオペラであると同時に、 これはミステリであり、謎解きの物語なのだ。 リドラがリドル(riddle;なぞ、判じ物)を解くのだ。 そして、リドラこそがリドル(不可解な人)。 凝りに凝って、緻密に織り上げられた物語なのだが。

けれど。
私の中では、 多くのことが、うまく像を結べない。 イマジネーションが豊かすぎて、 あまりに超越的な印象が強すぎて、 登場人物にも、<バベル-17>の謎にも、 実は、あまり興味がもてなかった。 「言語とはいったい何か。 何を意味するのか。」など、 概念的なことがずいぶん面白く語られている。 結局、<バベル-17>の謎も、 そこに帰結していくのだが。
なるほどと。 確かに、感心し、納得はできるのだが。

私は、常に人物に惹かれ、 登場人物に感情移入をすることで、 物語の世界を共に楽しむタイプなのだ。 物語を俯瞰し、 登場人物をも謎の一部として、 張り巡らされた謎を解くことに 興味のあるタイプではないのだ。

だから、リドラやその他の個性的な登場人物に 惹かれなければ、物語の楽しみは半減してしまう。 リドラと一緒に、 謎に挑むことができなかった。 ただ、リドラが解く<バベル-17>の謎、 「言葉の力」というものへの 知的な好奇心が満たされていくだけで。

「うまく像を結べない」 そういうもどかしさがつきまとっている。 ただ、このひっかかり故に、 この物語のことは、ずっと忘れないかもしれない。(シィアル)


『バベル-17』 著者:サミュエル・R・ディレーニ / 訳:岡部宏之 / 出版社:ハヤカワ文庫

2000年10月30日(月) 『魔道書ネクロノミコン』

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