昼間、友人のオナカ君から電話がかかってきて、「今から釣りに行くけど、来んか?」と言う。 オナカ君は釣り師であるが、ぼくは釣りはしない。 糸に針を付けたり針に餌を付けたりと、準備が面倒そうだし、何よりも生臭いのが嫌である。 だが釣りを見るのは嫌いではない。 ということで、所用をすませてから、オナカ君が釣りをしている芦屋の柏原漁港へ向かった。
着いてみると、オナカ君は複雑な顔をして糸を垂れていた。 開口一番、「全然釣れん」と言う。 「ここは釣れる場所なんか?」 「前はここでたくさん釣れたんやけど…」 周りには家族連れで釣りにやってきている人もいたが、誰もが浮かぬ顔をしている。 「周りの人も釣れてないみたいやのう」 「おう…」
1時間ほどたっても、まったく釣果がない。 もう夕方である。 周りにいた人は諦めたようで、次々と帰って行った。 それを見てオナカ君も「やっぱりダメやのう…」と言った。 だが、釣り師オナカ君は諦めてはなかった。 「場所変えよう」と言うのだ。 「どこに行くんか?」 「遠賀川の河口堰。あそこはボラが釣れる」 ということで、ぼくたちは遠賀川河口堰に移動した。
なるほど、河口堰は釣れるのだろう。 釣り人の数は、柏原漁港よりも多かった。 川面では魚が飛び跳ねているし、川底にはいくつも魚影が見える。 「ここは釣れるんやのう」 「まあな。でも、あそこにおる人たちは釣れてないと思うぞ」 「えっ、何で?」 「釣り竿見てみ。ルアーやろうが」 と言われても、ぼくはルアーが何なのか知らない。 「竿と関係あるんか?」 「あるよ。ここはルアーじゃ釣れんのよ」
と、釣り師オナカ君がうんちくを語っている時だった。 竿がしなったのだ。 「おい、来たぞ」 オナカ君はゆっくりとリールを回し、引き上げた。 ボラである。 体長は30センチ強というところだった。 ところがオナカ君は「50センチやの」と言う。 さすがに釣り師である。
ボラは狭いバケツの中に、頭から突っ込まれた。 態勢が悪かったのか、何度も何度も体を揺らして向きを変えようとしていた。 ぼくがそれを見ていると、ボラは恨めしそうにぼくの顔を見た。
ちょっと哀れに感じたぼくが「このボラ、まさか今日死ぬとは思ってなかったやろうのう」と言うと、オナカ君は「ボラがそんなこと思うわけないやろ」と言った。 このへんが『詩人しんた』と『釣り師オナカ君』との感性の違いだろう。
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