下の写真、二人は海を見ているのではない。 浜にいた一人の男を見ているのだ。
ヒロミ(右)と嫁ブー
この写真を撮った後、ヒロミが「しんたさん見て。あの人棒切れ持ったよ」と言った。 見てみると、ヒロミの言うとおり、その男は棒切れを持っていた。 「あれがどうかしたんか?」 「あの人、絶対砂浜になんか書くよ」 「えっ?」 「ああいう場合、四文字が多いんよね」
そこでぼくもその男の行動を見ていた。 すると、ヒロミの言うとおり、その男は棒切れで砂浜に文字を書きだしたのだ。 遠くからだったのでよく見えなかったが、確かに四文字程度の文字を書いているように見えた。 そして男は、それをケータイのカメラに収めているようだった。
二人は浜に降り、男がそこに何を書いたのかを確認しに行った。 ぼくは例の写真を編集しながら、二人の後をゆっくり歩いて付いて行った。 するとヒロミは、いったん男の立っているところまで行って、口を押さえて笑いながら、ぼくがいるところまで走ってきた。 「どうしたんか?」 「やっぱり四文字やったよ」 「そうか。何と書いてあった?」 「『サヨナラ』。ブブブッ…」
男の立っている近くまで行って見てみると、なるほど砂浜には『サヨナラ』と書いてあった。 「きっとあの人、文字が波で消されたら帰るはずよ」と、小声でヒロミが言った。 どうもヒロミは、男の行動の先々がわかっているようだ。
結果はヒロミの予言どおりだった。 波が文字を消すと同時に、男はそこから立ち去って行ったのだ。 「ヒロミ、よくわかったのう」 「わかるよ。お決まりのパターンやん」 「お決まりなんか?」 「うん。ほら、よくドラマとかであるやん」 「そう言われればそうやのう」 「でも、古い青春ドラマやけどね」
「ということは、あの男は傷心旅行なんか?」 「うん。絶対そうよ。だってね、波が文字を消した時、ケータイを覗き込みよったんよ」 「それが何か関係あるんか?」 「大ありよ。あれはきっと、保存してある彼女の写真を消したんよ」
その会話をしている時、ぼくは去っていく時の男の横顔を思い出していた。 風采の上がらない男で、口を魚のようにポカンと開けて歩いていた。 そのせいなのか、あまり寂しそうには見えなかった。
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