頑張る40代!plus

2006年09月19日(火) サヨナラ男

下の写真、二人は海を見ているのではない。
浜にいた一人の男を見ているのだ。


          ヒロミ(右)と嫁ブー

この写真を撮った後、ヒロミが「しんたさん見て。あの人棒切れ持ったよ」と言った。
見てみると、ヒロミの言うとおり、その男は棒切れを持っていた。
「あれがどうかしたんか?」
「あの人、絶対砂浜になんか書くよ」
「えっ?」
「ああいう場合、四文字が多いんよね」

そこでぼくもその男の行動を見ていた。
すると、ヒロミの言うとおり、その男は棒切れで砂浜に文字を書きだしたのだ。
遠くからだったのでよく見えなかったが、確かに四文字程度の文字を書いているように見えた。
そして男は、それをケータイのカメラに収めているようだった。

二人は浜に降り、男がそこに何を書いたのかを確認しに行った。
ぼくは例の写真を編集しながら、二人の後をゆっくり歩いて付いて行った。
するとヒロミは、いったん男の立っているところまで行って、口を押さえて笑いながら、ぼくがいるところまで走ってきた。
「どうしたんか?」
「やっぱり四文字やったよ」
「そうか。何と書いてあった?」
「『サヨナラ』。ブブブッ…」

男の立っている近くまで行って見てみると、なるほど砂浜には『サヨナラ』と書いてあった。
「きっとあの人、文字が波で消されたら帰るはずよ」と、小声でヒロミが言った。
どうもヒロミは、男の行動の先々がわかっているようだ。

結果はヒロミの予言どおりだった。
波が文字を消すと同時に、男はそこから立ち去って行ったのだ。
「ヒロミ、よくわかったのう」
「わかるよ。お決まりのパターンやん」
「お決まりなんか?」
「うん。ほら、よくドラマとかであるやん」
「そう言われればそうやのう」
「でも、古い青春ドラマやけどね」

「ということは、あの男は傷心旅行なんか?」
「うん。絶対そうよ。だってね、波が文字を消した時、ケータイを覗き込みよったんよ」
「それが何か関係あるんか?」
「大ありよ。あれはきっと、保存してある彼女の写真を消したんよ」

その会話をしている時、ぼくは去っていく時の男の横顔を思い出していた。
風采の上がらない男で、口を魚のようにポカンと開けて歩いていた。
そのせいなのか、あまり寂しそうには見えなかった。


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