88年の台風19号もすごかったが、今日ほどは酷くなかった。 風の音が「ピュー」とか「ゴー」ではない、「ドドドドー」なのだ。 家にいてもけっこう恐いものがあった。
その風の一番風の強かったのは午後8時半頃だったが、その時間にぼくは実家に行く用があって外出したのだ。 その時の風ほど恐いものはなかった。 とにかく突風、突風、突風の連続なのである。
近場だったので、最初は歩いて行こうかと思っていた。 が、外の状況を見て考えを変えた。 街灯が、電柱が、そして隣のセブンイレブンの看板が揺れているのだ。 駐車場の隅っこに、どこから飛んできたのだろうか、トタンの切れ端が落ちている。 このまま歩いて行ったら、何が飛んでくるかわからない。 そこで車で行くことにした。
途中でタバコを買うために停車した。 ところが外に出ようとしたら、ドアが風に押されて開かないのだ。 風がやむまで待って、ドアを開けると、また突風が吹き、ドアを押し戻そうとする。 負けじとドアを押し返して外に出た。
外に出てみると、雨は小降りだった。 自動販売機の横に設置してあるビン・缶入れのボックスが倒れて、中のゴミがその辺一帯に散らばっていた。 自販機にお金を入れようとすると、その上のひさしがギシギシと言って、今にも落ちそうな気がする。 そこで素早くお金を入れて、タバコを取り出した。
車に戻りドアを開けると、風がドアの隙間から潜り込み、車の中をかき回す。 おかげで座席はタバコの灰だらけになった。 しかし早くこの場を立ち去りたいので、お構いなしに車を出発させた。
実家の駐車場に着くと、今度は車が大きく揺れだした。 それもそのはず、そこは普段でも団地風の強く吹くところである。 それに加えて今日の風だ。 道路沿いに立っているミラーは左右に大きく揺れ、周りの木々はその力で倒れんばかりにしなっていた。 またもやぼくは、風が収まるのを待ってドアを開けたのだった。
さて、用を終えて家に戻ろうとしたのだが、風はよりいっそう強くなっていた。 そこで、風が収まるまで実家でテレビを見ることにした。 テレビではしきりに「風が収まるまで、外出することのないように」と呼びかけていた。
1時間経った。 だが風が収まることはなかった。 家に帰らないと食事にありつけないので、しかたなく実家を出たのだが、テレビの呼びかけのせいで、風がさらに強くなったような気がする。 おかげで、家に戻るまで生きた心地がしなかった。
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