ぼくは電化製品やパソコンよりも、楽器関連のサイトを見ることの方が多い。 特にギターのカタログなどを見つけると、飽きもせずにずっと眺めている。 まあ、趣味がそうなのだから、別におかしくいことではない。 だが、考えてみるとぼくの趣味はギターを弾くことであって、ギターを収集したり、カタログを見たりすることではない。 とはいうものの、先に言ったとおりで、なぜか楽器のサイトに足繁く通っているのだ。
そういえば、忘れていたことがある。 ぼくは25年間、家電業界に携わってきたのだが、実はその3分の1以上にあたる9年間は、楽器を販売していたのだった。 楽器部門にいたのは、最初に就職した会社でのことだった。 その会社には11年勤めていたから、そのほとんどの年月を楽器販売に費やしたのだった。
あの時代、仕事柄、ぼくはよく楽器のカタログを見ていた。 最初の頃はカタログだけでよかったのだが、そのうちカタログだけでは追いつかなくなった。 下取りというやっかいなことを始めたからである。 機械ものは製造した年もわかるし、その当時の価格もわかるから、下取り価格は知れている。 だが、ギターはそうはいかない。 国産のほうは機種名などで価格はすぐにわかるのだが、輸入物はたやすくわかるものではない。
そこで、ギターの専門誌や、その歴史が書いてある本などを取り寄せて、勉強することにした。 とはいえ、最初は仕事感覚でだったので、あまり真剣にはやらなかった。 とはいえ、元々好きなギターである。 徐々にハマっていき、そのうちそこに載っているギターを仕入れてみたくなってきた。 そこで手始めに、カールへフナーのバイオリンベースを仕入れることにしたのだ。
カールへフナーのバイオリンベース…、ビートルズの初期にポールマッカートニーが使っていたやつである。 なぜ、これを選んだのかというと、その時すぐに手にはいると聞いたからだ。 ぼくはこの商品に16万円の価格を付けて店頭に並べた。 すると、これがすぐに売れたのだ。 そこで追加注文したのだが、それもすぐに売れた。
これに気をよくして、近郊の店で扱ってない、それでいて歴史的な価値のある機種を仕入れることにした。 自分で仕入れたものだったし、好きなジャンルの商品だったから、売るのにも熱が入る。 その結果、自分で仕入れたものの売り上げは順調だった。
ところが、本社が仕入れたものは、まったく売れなかった。 そのため本社から、たびたび「ヘビメタ全盛の時代に、何でそういう歴史ものを仕入れるんか?」と文句を言ってきた。 しかし、ぼくは完全に無視していた。 こういう世界では売った方の言い分の方が強いのだ。
まあ、こういうこともあって、ぼくの楽器時代というのは、わりと充実していた。 その時代を振りかえる時、電器屋さんに勤めていたというよりも、楽器屋さんに勤めていたというイメージの方が強いのは、きっとそのせいだろうと思う。 楽器のサイトによく行くというのも、きっとその時代の印象が強いからだろう。
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