二日続けてハンドルネームについて書いてきたが、それを書いている途中に思い出したことがある。 それは通り名のことである。 高校時代、ぼくはよく友人に通り名を付けていたものだ。 例えば、オナカ君は『チェリー・オナカ』だった。 『ゲリー』という名を付けた人もいる。 最近では、うちのパートさんに、『ゴンザレス』という名を付けている。 いずれも深い意味はない。 ただその時の気分で付けたのである。
そういえば、以前取引先のTさんという人が、「今度、商売やろうと思うんやけど、本名だとちょっと通りが悪いけ、何かいい名前を付けてくれん?」と言ってきたことがある。 もちろんその人は、ぼくが姓名判断をやるということを知っていた。 それで頼みに来たわけだ。
そこでぼくは、「通りのいい名前ねえ…。そうですねえ、商売やるのなら、凝った名前よりも、誰もが一度聞いたら忘れない名前がいいですよ」と言った。 「忘れない名前ねえ…。難しいなあ」 「いや、何も難しくはないですよ。本名はそのままにしといてもいいんですから」 「どうすると?」 「通り名を使うんですよ」 「通り名?」 「例えば、ガッツ石松は、『ガッツ』で通るじゃないですか。石松さんとか、あまり言わないでしょ?」 「そういえば、そうやねえ。石松さんじゃピンと来んもんねえ」 「通り名にしましょうよ」 「通り名か。何かいいのある?」 「なるべく短く強そうな名前なんかどうですか?」 「なるべく短くて強そうな名前か…。例えば?」 「うーん、例えばですねえ…。ああ、ジャガーとか」 「ジャガー?」 「短くて強そうじゃないですか。それに俊敏そうだし、覚えやすい。Tさん、下の名前は何でしたかねえ?」 「晃一やけど」 「ジャガー晃一か…。いいじゃないですか。それにしましょうよ。語呂もいいし」 「そうかねえ…」 「そうですよ。よし、今日から『ジャガーさん』と呼ぶことにしますよ」
ということで、それ以来ぼくはTさんのことを、『ジャガーさん』と呼んでいる。 その影響からか、ぼくの周りの人まで『ジャガーさん』と呼ぶようになった。 しかも、その中にはジャガーさんの本名を知らない人もいるから、お笑いである。 「ねえねえ、しんたさん。ジャガーさんに用があって電話したいんやけど、ジャガーさんの本名何と言うんかねえ?」と聞かれることがよくある。 そのつど、本名を教えてやるのだが、時には教えるのが面倒なこともある。 そういう時には、「別に本名じゃなくていいよ。ジャガーさんで通るんやけ」と言っている。
そういえば、前にいたアルバイトに 『ジャガー』が本名だと思っている子がいた。 ある日その子がぼくに、「しんたさん、ジャガーさんっているでしょう。ジャガーってどういう字を書くんですか?」と聞いてきたことがある。 意地の悪いぼくは、笑いをこらえて、「いい質問やね。蛇に川と書くんよ」と教えてやった。 「ああ、ジャガーさんって、本当は『ジャガワ』さんっていうんですかあ。ふーん、変わった名前ですね」 「そうだよ」 その子はアルバイトを辞めるまで、『ジャガー』さんを『蛇川』さんと思っていたのだった。
ところが、当のTさんは『ジャガー』という名前をあまり気に入っていないようだ。 その証拠に、『ジャガー』という名前は、ぼくの周りしか通用しないのだ。 会社に電話しても、『ジャガーさん』では通用しない。 せっかくいい名前を付けてあげたのだから、もっと活用してもらいたいものである。
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