【イトキョン】 うちの店に『イトキョン』という女性の従業員がいる。 背の高い人で、足がやたら長い。 ぼくより長いのではないだろうか。 ホワイトデーに、ぼくの手渡した包みを見て、「うゎー、ヨックモックやん」と言って歓喜の声を上げたのは、実はこのイトキョンなのだ。 そのホワイトデーの日に、この人の面白い癖を見つけた。 イトキョンが真剣に仕事をしていたのを見つけ、ぼくはそーっとイトキョンに近づいていき、声色を変えて「あ、すいません」と言った。 こういう場合は、素早く振り向いて「はい」と答える人が多い。 ところが、イトキョンは違った。 ぼくが「あ、すいません」と言っても、すぐに振り向かなかった。 彼女はいったんそこで笑顔を作り、そのあとで「はい」と振り向いたのだ。 そう、彼女は『作り笑顔女王』だったのだ。
実は、ぼくと彼女とはあるつながりがある。 それは、イトキョンのお父さんは、ぼくの高校時代の音楽の先生だったということだ。 前に「世間は狭い」という日記を書いたが、これまた狭い実証になった。 今日、そのイトキョンに、このホームページの存在を知らせた。 ということで、慣れない手つきでパソコンを触りながら、この日記を見ていることだろう。
【背が高い人】 イトキョンが『背が高い』というので思い出したことがある。 高校2年の時だった。 帰宅途中にデパートでレコードを漁っていた。 その時、一人の背の高い男が目に付いた。 ぼくは「背が高いのう」と感心して、その男を見た。 その男は高校生だった。 いちおう学生服を着ていたので、襟章を見ればどこの高校かすぐにわかるはずなのだが、あまりに背が高いので、そちらのほうばかりに気を取られて、それを確認することを忘れていた。 それが命取りになった。 しばらく見ていると、その男はぼくの存在に気づいたようだった。 相手もぼくを見ている。 が、彼の目つきは、ぼくがしているような感心して見る目つきではなかった。 殺気を含んでいるのだ。 しばらくして彼はぼくのそばにやってきた。 そして、声を荒げて「コラ、何ガンつけよるんか」と言った。 その時ぼくの目に男の制服の襟章が入ってきた。 「まずい!」 どう見ても朝高である。 しかも、相手は一人ではなかった。 その頃にはぼくもそこそこ背が高く、筋肉もついていたのだが、何せ相手が相手である。 そこで、ぼくはさっそく逃げたのだった。
だけど、あの男は高かった。 世の中には、あどけない顔をしているのに、なぜか背だけを無理矢理引き伸ばしたような人がいる。 そういう人に限って、やせ細っているものだ。 だが、その男はそうではなかった。 背が高いばかりではなく、そこそこ横もあり、顔もその背の高さにあった顔をしていた。 あんなのとやり合っていたら、おそらくボコボコにされていただろう。 いや、背の高い人の弱点は足腰にあるから、そこを攻めていたら、勝てたかもしれない。 しかし、後が面倒だっただろう。 何せ、相手が相手だからだ。 カッターナイフを持って暴れられでもしたらことである。
|