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2004年03月22日(月) H先生(上)

先日、ぼくが社員用トイレの個室で用を足していると、誰かがノックしてトイレに入ってきた。
「取引先の人かな?」と思った。
社員用トイレは、四畳半ほどの広さで、小用が2器、大用が1器設置してある。
家にあるような、大小兼用の便器が一つだけしかないトイレではないので、従業員ならトイレに入る時、わざわざノックなどしない。
ぼくが、「取引先の人かな?」と思った根拠も、そこにある。

さて、その人は、用を足し手を洗った後にそそくさと出て行ったのだが、トイレの扉が扇ぐ風で、それが誰だかわかってしまった。
その風に乗って、あるにおいがしたからである。
そのにおいとは、ポマードである。
社員トイレは、けっこう多くの人が利用しているのだが、そういう人の中でも、ポマードを付けているのはたった一人しかいない。
薬剤師のH先生である。

「ああ、H先生やったんか。それにしても、何でノックなんかして入ってくるんかのう」とぼくは思ったが、すぐに「ああ、あの先生なら、そういうこともあり得る」と思い直した。
なぜなら、その先生、ちょっと変わっているからだ。

どこがどう変わっているのかということを、ここで説明するのは難しいのだが、強いて説明するとすれば、まずその動きだ。
H先生の動きは、何か堅くぎこちない。
ちょうどあの高見盛を見ているようである。
指先はいつも力が入っているのか、小刻みに震えている。
そのため、いつも先生には緊張感が漂っているように見える。
先生は、人と話す時、必ず大げさに手を動かすのだが、その際、緊張感漂う指はぎこちなく動いている。
例えば、「大丈夫です」という時、先生は指でOKサインを出す癖があるのだが、その時も指先は震え、うまく噛み合ってない。

笑う時は、必ず口元を手で覆い、「ヒッヒッヒ」と笑う。
従業員とすれ違う時などは、いつも額の汗をぬぐうようなパフォーマンスをしている。
「忙しいですか?」と尋ねると、甲高い声で「汗びっしょり!タオル3枚かえましたよ」と、いつも決まったセリフを言う。
それを言った後、決まって口元を手で覆い、「ヒッヒッヒッ」と笑っている。

さて、H先生は、かなり自己中心的な性格の人らしく、いつもそこのパートさんから不平不満を聴かされている。
あるパートさんが入ったばかりの頃、一人のパートさんが辞めた。
その時、H先生は「非常事態になりました。当分非常体制で臨みみましょう」とパートさんたちに言った。
ところが、その翌日、そこの長であるH先生は、当初のロ−テーションどおり休んだという。
「ふつう非常態勢なら、そこの長が率先して休みを返上するよねえ。でも、先生は違うんよ。私たちに休むなと言っておいて、しっかり自分だけ休むんやけ」と、そのパートさんは今でもこぼしている。


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