現在、翌朝の7時44分である。 実は、今から昨日の日記を書き出すのだ。 許された時間は、午前8時40に出かける準備をするので、あと56分である。 「どうせ下書きしてるんだろう」と思われるかもしれないが、下書きはしてない。 「でも、ネタくらいはあるだろう」 ネタもない。 つまり、ぶっつけ本番である。
『ぶっつけ本番』 ぼくは、何度この言葉を実践したことだろう。 古くは学生時代。 中間や期末といった定期考査の時は、ほとんどこの『ぶっつけ本番』をやっていた。 しかし、授業をまともに聞いてないし、「予習復習はもってのほか」と思っていたぼくにとって、この『ぶっつけ本番』はちと荷が重かった。 元々基礎がないものだから、つぶしがきかない。 ということで、この『ぶっつけ本番』は、いつも玉砕に終わった。
卒業してからの『ぶっつけ本番』といえば、就職活動をしていた時の面接があった。 最初は「おれのすべてをぶっつけてやる!」などと意気込んでいったため、ここでもあえなく玉砕。 しかし、幾度も実践で鍛えていくうちに、面接の要領を得ることになる。 20歳の頃の面接成功率が10%に満たなかったのに対し、22歳の頃の面接成功率はほぼ100%であった。 前に勤めていた会社の面接の時は、髪の毛が長いという理由から、危うく落とされそうになった。 「やばい!」とは思ったが、そこは面接の『ぶっつけ本番』慣れしている身。 ぼくはとっさに話題をかえ、そちらのほうに相手の関心を持っていかせた。 その話題とは、それまでのアルバイト遍歴である。 それをとうとうと述べ、合格に結びつけた。
30代半ばに転職したのだが、その時の就職活動も、すべて『ぶっつけ本番』だった。 その頃になると、面接などというものはもう余裕であった。 履歴書にそれまでのキャリアを詳しく書いていたので、それを説明するだけですんだ。 あとは企業がそのキャリアを好むかどうかの問題である。
『ぶっつけ本番』といえば、ぼくはよくライブの夢を見る。 内容はいつも同じで、これからステージ本番という時に、歌詞やギターコードを忘れてしまって、焦る夢である。 「えーい、なるようになれ!」と開き直っている。 で、幕が開くところで目が覚める。 けっこうリアルな夢なので、目が覚めたあとも、しばらく興奮していることが多い。
その焦りというのは、人の結婚式に行って、係員から「突然で申し訳ありませんが、新郎が『ぜひ、しんたさんに歌ってもらいたい』と言っておりますので、ここで歌ってもらえませんでしょうか」と言われた時の焦りである。 こちらは歌うつもりで言ってないので、何も準備してない。 周りを見回すと、100人以上のお客である。 昼間なので、当然昼酒を飲んでいるため気分が悪い。 新郎の頼みなら、無碍に断ることも出来ない。 そこで、「えーい、なるようになれ」と開き直るのである。 歌ったあともしばらくは興奮している。 おそらく、その夢は、その経験を再現したものだろう。
さて… あ、もう予定時間を過ぎている。 現在、8時46分である。 これはいかん。 あと14分で出かける仕度をしなくてはならない。 ここからが、ぶっつけ本番である。
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