披露宴でのこと。 困ったことが起きた。 ぼくが座っていたテーブルに5本のビールが運ばれてきたのだが、そのテーブルに座っていた人は、ぼく以外誰も酒を飲めなかったのだ。 乾杯の後、親戚の一人が「しんちゃん、このビール、あんた全部飲まなよ」という。 ただでさえ、寝不足や腰痛に悩んでいる身に酒は応えるのに、今日は慣れない礼服を着、窮屈なネクタイをしている。 普段のラフな格好で飲むのとは、勝手が違う。 飲む時は、無意識のうちに適度な運動をしているものである。 そのため、酒の攻撃をもろに受けないですむのだ。 しかし、窮屈な格好をしていると、それも出来ない。 しかも、昼間である。 ぼくは夜の酒は強い方なのだが、なぜか昼間の酒には弱い。 かつて、昼間にビール1杯飲んだだけで、吐いたことがある。 その晩、また飲み直しをしたのだが、その時はビール3本を空けたのにケロッとしていた。 体調が悪いわけではなかったのに、なぜ昼間吐いたのか、理由がわからなかった。 ぼくが昼酒に弱いと悟ったのは、ずっと後のことである。
「このビール、他のテーブルに回わすとか、人に注ぎに行くとかすればいいやん」 「だめ、あんたが全部飲み!」 しかたなくビールを飲んでいると、他の親戚の者が、「しんちゃんは日本酒のほうがいいやろ」などと言って、日本酒を注文した。 ビールでさえ手こずっているのに、この上日本酒なんて飲めるはずがない。 しかし、その時はすでに、「もう、どうにでもなれ」という気分でいた。
ということで、ぼくは注がれるままにビールや酒を飲んでいった。 最初は気分がよかったのだが、宴たけなわの頃、ついにやってきた。 下腹が痛い。 それも、激痛である。 ぼくは慌ててトイレに駆け込んだ。 下痢状態だった。 しかし、用を足した後、腹のほうはすっきりした。 「もう大丈夫」と思った矢先だった。 今度は頭痛が襲ってきたのだ。 後頭部が脈打ちだし、だんだんそれは頭全体を覆ってきた。 経験上、この頭痛は翌朝まで治らないのを知っている。 「明日の朝まで、この頭痛と闘わなければならないのか」、と思うと憂鬱になった。
披露宴が終わった後で2次会に誘われたのだが、ぼくはそれをキャンセルし、タクシーに乗って家まで帰った。 激しい頭痛が襲ってくる。 他にすることがなかったので、とりあえず寝ることにした。
起きてみると、もう午後8時である。 5時間ほど寝入っていたようだ。 まだ頭痛は続いている。 しかし、翌朝までこれは治らないとわかっているから、それについてもう頓着しなかった。 「飲み直し」 そう言って、ぼくはまた盃をとった。
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