「ケッ、オラウータンやないか」 実は、この三連休の間、一度もひげを剃ってないのだ。 初日は気になっていたのだが、2日目はそれほど気にならなくなり、3日目の今日はどうでもよくなっていた。 夕方、歯を磨いた。 冒頭のセリフは、その時鏡を見て発したものである。
昨日の日記で、まともな三連休をとったことがないと書いた。 そのため、ひげをここまで伸ばしたこともない。 学生時代は、それほどひげが多くなかったから、2,3日剃らなくても大して目立たなかった。 ところが、歳とともにひげが増えていった。 鼻の下やあごだけに目立っていたひげは、徐々に頬を侵していった。 気がつけばオラウータンである。
東京にいた頃の話だが、ぼくの仲間にHという平尾昌晃似の男がいた。 彼は非常に存在感のある男だった。 目が大きい、まつげが長い、鼻の下が少し長いなど、彼には数々の特徴があった。 それだけでも世間に対して、ある程度の存在感を示すことが出来る。 しかし、それだけでは「非常に」という形容動詞は使えない。
もう一つ彼には特徴があった。 それはひげである。 彼はひげが異常に濃かった。 彼はよく、「すぐにひげが伸びるので、半日に一度剃らないとならないんだよ」と嘆いていた。 しかもひげが堅いために電気カミソリでは役不足で、いつも手剃りのカミソリを使っていた。 そのせいか、青々とした剃り跡には所々で血がにじんでいた。 しかし、ひげが異常に濃いだけなら、探せばそういう人はいくらでもいるものである。
では、何が彼を非常に存在感のある男に仕立てたのか。 それは、その所々に血痕のある青々とした剃り跡と、数々の特徴ある顔とのバランスが、微妙にズレていたということだった。 その微妙なバランスのズレこそが、彼を彼たらしめ、世間に対して非常に存在感のある男に仕立てたのだ。 もし彼を知らない人が彼を見たら、体中が痒くなるか、もしくは笑うかのどちらかだろう。 もし、その顔で流し目でもされたら…。 ああ、思い出しただけでも気味が悪い。
さて、ぼくの三連休も今日で終わりである。 朝になれば、嫌でもひげを剃らなくてはならない。 今、顔全体に7,8ミリのひげが広がっている。 おそらく朝になれば、このひげは1センチに伸びているだろう。 それだけのひげを剃るのだから、けっこう時間がかかることが予想される。 電気カミソリというのは、ひげが起きた状態だと剃りやすいのだが、寝た状態だと非常に剃りにくいものである。 最初は軽く肌に当て、徐々にひげを短くしていく。 ある程度短くなったところで、一気に剃り上げる。 ぼくは手先が器用な方ではないので、この作業に手間取ってしまう。 だいたい、ひげを剃ること自体が面倒くさい。 だから、ぼくは、休みの日にはあまりひげを剃らないのだ。 もしぼくが客商売をやってなかったら、それこそオラウータンの称号をいただくことになるだろう。
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