| 2003年03月16日(日) |
西から風が吹いてきたら(後編) |
ある時、ぼくは友人AにN美のことでグチを聞いてもらった。 友人Aは言った。 「やったのか?」 「・・・あのねえ、つき合ってもないのに、何でやらんといけんの?」 「いやー、やっちゃうと大変だよ。あとが」 「だから、やってないって」 言うんじゃなかった。
しかし、結果的にはそれがよかった。 あるコンパの席で、酔っぱらった友人AがN美にそのことで絡み出した。 友人Aが何を言ったのか知らないが、N美は泣きながら「しんたなんて信じられない」と言い捨てて出て行った。
翌日、N美がぼくのところに来て、「話があるんですけど」と言った。 ぼくも言いたいことがたくさんあったので、近くの喫茶店で話し合うことにした。 N美は開口一番、「どうして別れるなら、別れるって言ってくれないの?」と言った。 「別れる? 誰からそんなこと聞いた?」 「Aさん」 「Aが?」 「そうよ。どうしてAさんなんかに相談するの?」 「相談なんかしてない」 「どうしてちゃんと私に言ってくれなかったの?」 「何を?」 「別れるってこと」 「はっきりさせておきたいんやけど、いつおれがつき合うと言った?」 「それは・・・。最初に喫茶店に行った時よ」 「そんなこと言った覚えはない!」 「口にしなかったかもしれないけど、私あの時わかったの」 「何が?」 「しんたが私のこと好きだってこと」 初めて喫茶店に行った時は、N美の相談に乗ってやったのだ。 こちらは真面目に受け答えしていたのに、どこをどう間違ってそんな勘違いをしたのだろう。 ぼくは、そんなに物欲しそうな目をしていたのだろうか。
「悪いけど、そんなことこれっぽっちも思ったことはない」 「つき合ってる時も?」 「だから、つき合ってない!」 「だって、つき合ったじゃない」 「いっしょに喫茶店に行くことがつき合うことか。それならおれは何人もの人と同時につき合ったことになる」 「えっ、何人もの人と同時につき合ったの?」 「・・・。おれは誰ともつき合ってないし、N美はおれにとって、特別な人でも何でもない」 「じゃあ、つき合ってないってこと?」 「そう」 「・・そうなの。じゃあ、別れるのね」 「つき合ってもないのに、どうして別れる別れんの話になるんか?」 「別れるならはっきり言ってほしいの」 ほとほと参った。 この会話が、そのあと30分は続く。
しびれを切らして、ぼくは言った。 「別れると言ってほしいのなら、別れよう」 「・・別れるのね。別れるのね」 そう言ってN美は泣き出した。 うんざりだ。 ぼくはもう、ここにいたくなかった。
しばらくして、N美が「腹が痛い」と言い出した。 席を立ち、トイレに駆け込んだ。 何分か後、N美は青い顔をして出てきた。 「大丈夫か」と聞くと、「吐いたの」と言う。 「困ったのう」 「もういい。帰るから」 「大丈夫なんか」 「別れたんだから、しんたには関係ないでしょ!」 そう言って、N美は席を立った。 しかし、ふらついている。 仕方なく、ぼくはN美を駅まで送ってやった。 その間もN美は泣いている。 しかし、ぼくは何も声をかけなかった。
翌日、友人たちの視線がぼくに集まった。 友人Aがぼくに駆け寄ってきた。 「しんた、どうだった?」 「ああ、あくまでもつき合ってると言うから、『じゃあ別れよう』と言った」 「で、N美は?」 「気分が悪くなったとかで、駅まで送っていった」 「そうか・・・。しんた、さっきN美の友だちから聞いたんだけどさあ」 「え?」 「N美、まだしんたのこと狙ってるみたいだよ」 「どういうこと?」 「昨日、気分が悪くなったって言っただろ」 「ああ」 「それ、どうも芝居だったらしいんだ」 「えっ!?」 「しんたのことだから、送ってくれると思ったらしいんだ」 「吐いて、ふらついて・・。それも芝居やったんか?」 「そうみたい。気をつけたほうがいいよ」
この事件は1月末に起きたのだが、それから2ヶ月の間、ぼくはN美を無視し続けた。 毎日顔を合わさなければならなかったので、けっこうきついものがあった。 バレンタインデーの時だったが、N美がぼくにプレゼントを持ってきた。 しかし、ぼくはそれを受け取らなかった。 受け取れば、またN美は勘違いする。 用があっても、直接声をかけることはせず、N美の友人を通じて話すことにした。 いつしかぼくは、「早く東京から去りたい」と思うようになっていた。
「何も告げずに行くよ N美もうぼくのことは忘れとくれ 会おうとも思わないでおくれ ホントにもう二度とね」
3月の末、ぼくは北九州に帰った。 羽田を発った時、ぼくは正直ホッとしていた。
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