世はマイナスイオンブームである。 「あるある大事典」で取り上げられた頃から、ぼくの周りでも「マイナスイオン」という言葉が聞かれるようになった。 その放送からしばらくして、取引先の人が「マイナスイオン」商品なるものを持ってきた。 「うちも、先日『あるある大事典』で取り上げていた、マイナスイオンを使った商品を開発しました」と言って、ドライヤーを取り出した。 ぼくは「あるある大事典」を見たことがないので、突然「マイナスイオン」と言われてもピンと来なかった。 そこで、その取引先の人に「マイナスイオンとは何か」と聞くと、「空気のビタミン」と称されている、実に体に良いものだと言う。 「絶対売れますから」というので、半信半疑ながらその商品を仕入れてみると、これが売れる売れる。
その後も、マイナスイオンがらみの商品が数多く出てきた。 ドライヤーのほか、エアコン、扇風機といった家電製品。 パソコンなどに貼り付けるシールのようなもの、ドライヤーの先っぽにつけるクリップのようなもの、扇風機のカバー、エアコンのカバーやフィルター、ネックレス、ブレス、リング、シート、布団、枕等々。 「これでもか」というように、いろいろなマイナスイオン製品が発売される。 しまいにはトルマリンの原石まで売る始末だ。 この原石を水の中に入れると、健康水ができるという。 一度、その原石をサンプルとして持ってきた大阪の業者がいる。 「サンプルなら一個ちょうだい。試してみるけ」とぼくが言うと、その業者さんは、「何をいいますんや。今日が初日なのに、サンプルなしでどうやって売り込みできますんや」と言って断った。
しかし、ここまで「マイナスイオン、マイナスイオン」と言われ出すと、売る立場のこちらとしても、試してみないと売り込みの際の説得力がなくなってしまう。 そう思って、3週間ほど前にマイナスイオンブレスを買って、つけてみた。 ぼくが買ったのは、石製や金属製のではなく、輪ゴムの親分みたいなものだから、腕につけていても重くもなければ違和感もない。 寝るときも、風呂に入るときも、文字通り肌身離さず今日まで装着し続けた。
で、効果はというと、心身とも実に快調、とまではいかないが、そういえば肩のコリがなくなったような気がする。 また、長いこと背中の筋が腫れて痛かったのだが、それもなくなったような気がする。 「まあ、なんとなく」「そういえば」という程度の、気分的な効果はあるようだ。 あ、もう一つあった。 仕事中によく睡魔が襲ってきたのだが、それがなくなった。 頬をひねろうが、顔を洗おうが、目薬を差そうが、何をやっても取れなかった眠気が、このブレスのおかげ(?)で、まったくなくなっている。 これは特記すべきことである。
しかし、「これしてると、居眠りしなくなりますよ」では、今ひとつインパクトに欠ける。 「マジっすかあ? これしてるとホントに眠気がなくなるんすかあ?」と感動して買っていく人は、まずいないだろう。 医療器具ではないので、健康面で訴えていくこともできないし、やはり「気分」というような、抽象的なもので訴えていくしかないのだろうか。 まあ、今はブームの真っ最中だから、「マイナスイオン」とPOPにでも書いていれば、勝手に売れていく。 しかし、「これは!」とお客さんを唸らせるような、絶対的な効果を発見しない限り、ブームのままで終わってしまうだろう。 そのブームが去ったときが怖い。 在庫が残ったときの事を考えると、ゾッとする。 ルービックキューブ然り、たまごっち然り、である。 それを避けるため、これをブームとして終わらせないためにも、われわれ販売員は勉強していかなければならない。 それこそマイナスをプラスにする努力が必要である。
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