Lacrimosa 日々思いを綴る
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| 2005年01月18日(火) |
魔界都市から来た桃太郎 |
「お前達は私に会った」 桃太郎が発したその言葉に、鬼達は戦慄した。目の前にいるのは、それまでの純真な少年ではない。 この世の者と思えぬ美貌を備えた双眸。いや、それだけではない。そこからあふれ出すは、非情なる殺意。ひとたび睨まれただけで、心臓までが凍てつき、砕け散りそうだ。 永遠とも思える、しかしほんの刹那の沈黙を打ち破ったのは、赤鬼だ。 体の奥底より発せられた怒号は、空気を伝い、岩山をも揺るがさんばかりだ。 それは、他の鬼達を奮い立たせるためであったか。それとも自らの恐怖を振り払うためであったか。 ゆうに六尺はあるであろう金棒を振りかざし、赤鬼は桃太郎へ向かって突進した。桃太郎の刀は、すでに砕けている。 丸腰の小僧などに後れは取らぬ。一撃でけりが着く。 未だ恐怖に心を縛られつつも、鬼は勝利を確信した。恐怖は、小僧の頭と共に砕け散るのだ。 金棒が振り下ろされる刹那、桃太郎の小指がわずかに動いた。 ぴうん、と空気が鳴る音を、赤鬼も聞いたであろうか。 振り下ろされた右腕に、金棒は握られていなかった。今まで持っていた金棒はどこへ行った。 いやその前に、手首から先はどこへ行った。 赤鬼の背後で、どすん、と音がした。 しっかりと握っていたはずの金棒が、そこにはあった。赤鬼の手首と共に。 赤鬼の鮮血と悲鳴がほとばしったのは、ほんの数秒の後であった。 桃太郎の右腕が、大きく振られた。 再び空気がぴうん、と鳴った。 赤鬼の両腿に、赤い筋が走った。鮮血を撒き散らしながら、脚と腰は分かれた。支えを失った上半身が、悲鳴と共に地面に突っ伏す。丸腰であるはずの少年に、丸太ほどもある頑強な脚が斬られたのだ。 何が起こったのか、赤鬼にはわからなかった。だが、空気を鳴らした「何か」に斬られた。それを桃太郎が操ったのか? 「小僧、一体何を…」 上体を起こそうと、地に両腕をついた。だが赤鬼の上体は、腕を残してずるりと下にずれた。苦痛に歪んだ鬼の顔は血溜りに倒れ込み、切断された両腕がその上に折り重なった。 非情なる鬼の前に現れた、非情なる桃太郎。 彼が繰り出す、不可視の攻撃。 1000分の1ミクロンのチタニウム合金で作られた『妖糸』は、あらゆるものを切り裂くのだ。 「私の『糸』からは、何人も逃れられぬ。現の世にあって災厄を振りまく鬼ども、お前達の行く先は地獄以外にない」
…と、今回は菊池秀行風にしてみますた。
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