6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2010年01月13日(水) 夜半の溜息

久しぶりすぎの更新は、SSSで。
姑息な更新を決行です。

え、ナニが姑息なんですかって?

姑息も姑息ですよ。
コレ、同人誌の「ブレンド2」に載せるつもりで書いたものですもん。
でも、本が落ちたり。
載せようとしてた一部をチラシに使ったりで。
本にするほど話の本数がなくなり、放置(同人誌でもか!)してたので。

じゃあ、これをオンで使えばいいじゃないの。
と、さっき閃いたのでした。

姑息の極み!

でも、更新しないよりはいいかな・・・なんて、思うわけで。

とにかく、久しぶりの更新。
気づいていただければ、嬉しいかなあ(笑)
















































その邂逅は偶然だった。
個人的推論に基づく捜査から戻ってきた男と、エレベーターホールで鉢合わせたのは──。





エレベーターホールに設えられたソファに座り、コーヒーを片手に時を過ごした。
外界を映す強化硝子の向こう、暗闇と光の競演する都心に、視線を投げて。
込み合った案件もなく、午後から与えられた非番があったのだから帰宅すれば良かったのだが、片付けたい書類の山が目に入り、自分の身体を本部に留まらせた。
故に、愛妻に連絡を入れて、執務室に篭り書類と向き合い、深夜をむかえた。
──そして、トグサは息抜きに部屋を出たのだった。
隊長職を引き受けたことによって与えられた執務室の居心地は、悪いものではないし、トグサにはあらゆる意味でそこが必要だったが。
たまには、そこから抜け出さないと、見えるモノも見えなくなりそうで。
意識的に、こうして、外に出ることにしていた。

トグサはコーヒー片手に、エレベーターホールまでさ迷い出て。
ぼんやりとソファに腰を下ろした。



微かな機械音をさせ、エレベーターの扉が開いたのは、そんな時だった。



何気なく視線を流した先、そこに佇む男の姿に、トグサは少し困ったと思った。
義眼をこちらには向けているものの、きっと目を逸らしているだろうバトーに、どう対応したものか。
隊長職に就いてからというもの、徐々に離れていったバトーとの距離に、トグサは戸惑いを覚えつつも、それを受け入れた。

自分と男を隔てる、物理的で、感情的な、その距離を。

「───バトー、お帰り」

その時、何故、自分がそう口にしたのか。
トグサは後になって考えてみたが、結局、解らなかった。
ただ。
声が聴きたかったのかも、しれなかった。
耳に馴染んだあの低音を聞かずに、日を過ごすことが多くなった自分を。
振り払いたかったのだろう。
多分、間違いなく、そうだ。

「・・・・・」

沈黙が応えを返す。
彼女が9課から姿を消し、自分が隊長職を受けた頃から、めっきり口数の少なくなった男に戸惑いを覚えながらも。
そう、成らざるを得ないバトーの心情をトグサは理解できた。

それだけ。
バトーにとって彼女は特別で、むしろ神聖視とさえいえるほどの、至上の存在だったのだ。
何も言わずに去った女神を追い求める男の心を、少しは、理解できる。
例え、短い間でしかなかったとしても、彼女とバトーの傍らに居た者として。

それから、何があの男の気に入らないのかも、解っている。
彼女の居場所を奪ったつもりはないのだが。
この義眼の大男に、そう思われるのも承知で、トグサは隊長になることを選んだのだし。
彼女の目指した正義を、存在させ続けるには。
自分にはこの方法しかなかったのだ。
そして。
生身の体を一部とはいえ、義体化したことも。
バトーの感情に、なんらかの影響をあたえているのだろう。

でも。
だからこそ。
バトーにどんな風に思われようと、トグサは自分の選択を貫くつもりだった。
心の奥底に隠した感情が、どれほど揺らごうとも。
どれほど、胸が締め付けられても。


「お前、なんでここにいる」


じれったいほどの時間をおいて、呟かれたその言葉に。
トグサは、俯いた。
一定の距離を置きながらも、こうやって、自分の動向を気にかけている。
それに、少し笑みが浮かんでしまったからだ。

「・・・片付けたい、事があってね」

彼女が去って。
それでも、公安9課は存在し続けなければならず。
トグサが隊長になり、新人も大量に導入し、本部も新設された。
事件は途切れる事なく芽吹き、容赦なく、前へ前へと背を押す。
過去を振り返る余裕も、現在を黙考する猶予もない。
そして。
気が付けば、一年の月日が経っていた。
変わらずに止まる事は、許されなかった。

「無茶ばかりしやがる・・・隊長を引き受けなかった、俺への当て付けか?」

探るような、挑発的な台詞。
そうして、己の望む言葉を引き出そうとする。
バトーのやり口は、変わっていない。
『そんなんじゃない』
そう吐き出される台詞を、バトーは待っているのだ。
そして、思い通りの言葉で、トグサを休ませるつもりなのだろう。
『なら、さっさと帰れ』
でも、そんな風には、答えてやれない。
今は、もう。


「────そう、だったら?」


一瞬で、バトーの表情が凍りついたのが判った。
表面上、どこにも変化がなくとも。
自分が投げた言葉が、静かな湖面に投げ込まれた石のように、波紋を生じさせ、バトーのゴーストを揺らしているのが。
痛いほど、判った。
トグサはバトーを見上げ、それから目を逸らし、微かな溜息をついた。

「冗談。そんな訳ないだろ?あんたが断る事を選択したように、俺は承諾する事を選んだだけだ」

そう言葉を継いで、微かな笑みを唇にのせる。

彼女が守ってきたこの場所を、守りたかった。
その一翼を担えるのなら、何でもしようと思った。
あんたは、あの人を探す事を選ぶと、知っていたから。
トグサは言葉にはしない思いを、そっと心の中で呟いた。




「ただ、それだけだ。それだけだよ、バトー」





久しぶりにバトーと交わした、言葉に。
内容はどうあれ、安堵を抱いた自分に、トグサはまた溜息をついた。

バトーの無機質なはずの義眼が、揺らぐ光を湛え、見詰め返してくる。
それだけで今は、満足だった。











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武藤なむ