熱い洋楽コネタコラム

2008年06月18日(水) マイク・ミルズのインタビュー

1 このアルバムはかつてなく速く、短く、エッジー。本当に驚きました。昨年ダブリンでこのアルバムのためのリハーサル・ライブを行っていましたが、そのライブの形、空気のままそれがパッケージされているようですが、どんな経緯からこういうものが、出来上がったのですか?

MM:あのライブをやったのは、昔ツアーをよくやってた頃、レコーディングする前に観客の前で演奏してみてたわけだよ。そうすることで、僕はベースラインを改善できたし、自分のヴォーカル部分も改善できたし、ほかのヤツらも自分たちの部分をもっと隙ないものに仕上げられたし。だから今回の曲もそういうふうにしたかったんだよね。観客からの反応もそうだけど、自分たちがどう感じたかも鍵でね。そうして曲をちょっと変えたりしたんだ。もっと良くなった曲もあるし、短くなった曲もあるし、「Man-Sized Wreath」なんかは、あのライブをやらなかったら収録されなかったんじゃないかな。観客の反応もそうだったし、この曲に対する自分たちの気持ちもあってね。Bサイド向け、捨て曲かな、って思ってたんだ。でも、(やってみたら)すごくよくて、「よし、じゃあアルバムに入れようか」ってことになってさ。

2 あのダブリンでのリハーサル・ショーをやって、どんな感触を得ましたか?あそこで曲が育った!!!という感じですか?

MM:いい質問だね。いつでも……リハーサルに入って自分たちだけで演奏してる時は、それっぽい音になんだよね。でもみんなの前で演奏すると、「ベースラインはこれでいいかな?」「ボーカルはこれが自分のベスト? 変えた方がいいかな、もっと短くした方がいいかな」なんてことに注目するようになる。曲も短くしたし、取り除いた部分もあるし。いらない歌詞があるなって思ったらすぐ捨て。曲を違う視点から見ざるを得なくなるんだよね。

3 そもそもアルバムを制作する前に、新曲でリハーサル・コンサートをやろう!というアイディアを出されたのはマネージャーのバーティスさんだそうですが?

MM:いや、僕のアイデア。

>>それを聞いて、すぐにやろう!と決まったのですか?

MM:いや〜、みんなちょっと考える時間が必要だったよね。でもわりとすぐみんな「了解」って……。即決ではなかったね。僕がどうしてやりたいのか、っていうのを説明したら「そっかぁ、わかった……じゃあいいかな」って。こういうことなんだよね。ピーターは頭もいいし、機敏だから、頭の中でもう彼のギター部分はできあがってる。自分の部分は完成しちゃってるんだ。だからこれは、言うなれば、僕のため、僕がベースラインやバックボーカルを作り込むため、それからマイケルのボーカル部分を完成させるための試みだったんだ。だからピーターは「俺はどうでもいい。俺の部分はできてるもん」って反応だった。でも僕とマイケルにはすごく効果的だったね。

4 レコーディングも今までで一番早く進んだそうですが、これはほとんど
ライブ録音に近いくらいなのでしょうか?

MM:う〜ん、そうだね。なんでかな、すごく集中してたしね。あんまりキーボードは入れないで、ギター中心にしようって思ってたし。曲も短く、ロックにすることにしてた。ロックにしたかったんだ……って言うとありがちかもしれないけど、でもそういうものを僕らは求めてたんだ。まあ、そうやって自分たちの求めてるものもわかってたし、そうだね、今回はいつもよりずっと早かった。でも、僕らはとにかく集中してたんだ。信じてもらえないかもしれないけど、いまだに僕らはビル・ベリーを失ったこと、克服しようとしてるんだ。もう何年も経ったけどさ。いまだにビル・ベリーなしでどんなバンドになれるか、模索してるんだ。僕らも今のドラマー、ビル・リーフリンとはすごくしっくりきてる。だから、今、すべてがタイミングよく、やっと形になってきてるのかなって思うよ。

5 このアルバムで特筆すべきはどの曲も非常にメロディアスな点です。そして多くの曲が短く、ストレートで、速くて、すぐにみんなが歌いだしそう。
曲作りで特に意識されたことはどんな点でしたか?

MM:いや、あんまりいろんなことを意識しすぎてもいけないんだよ。たくさん決まりごとを作りすぎて、自分を制限しちゃうわけにはいかないからね。僕らはとにかく、ギターをたっぷり使って、短く……とにかく短い曲、って考えてた(笑)。そこが今回の一番の楽しみだったんだよ。なにかを加える代わりに、取り除いてたんだ。あれはかなり楽しかったね。ビル・ベリーがバンドを抜けた時、僕らは自由に探求していろんな方向に拡張していくことができるようになったんだ。それで僕らはそうしてみて、実際すごく楽しかった。でもしばらくして、「よし、それもやったし」ってなれば、今度はごく短めの、いいポップソングを作ることに戻る時。ピーターと僕は、小さい時にラジオで聴いて育ったものがいつも好きだったんだ。自分の言いたいことすべてを3分以内で言おう、っていう。必要なことすべてを3分以内に言えたら、大成功ってこと。このアルバムではそれをやろうとしてたんだよ。3分で言えないなら、長過ぎ、ってさ(笑)。ソングライターとして、僕らは自分たちに挑戦しないといけないんだ。僕らはずいぶん長いことやってきてるわけだから、自分たちに新しい課題を与えていかなくちゃいけない。それでここ最近の3枚は……これまでの課題は「探求すること」だった。いろんな方向に行ってみよう、ってさ。そして今回のアルバムでの課題は「自分たちの言いたいことをできるだけ早く言う」だったわけさ。

6 その曲作りの過程において、マイクが最もインスパイアされて、意識的であるにしろ、ないにしろ、間違いなく音楽に反映されているであろうことはなんですか?

MM:う〜ん、いい質問だね。僕は……ピーターと僕にとって一番楽しみなのは歌を書くことだと思う。そこがロックンロールで一番大変な部分。ギターは誰でも弾けるし、ベースも誰でも弾ける。最も大変なのは歌を書く部分。
 だから僕らの課題は、最も短い時間内で自分の言いたいことをすべて言える歌を書くこと、だったわけだ。どんどん広げて遊んで楽しんで、いろんな言い方で表現するのは簡単。でもこのアルバムでの課題は、最小限の中で……ヴァース2つにコーラス1回、ヴァース2つにコーラス2回、もしかしてブリッジも……どうやって自分たちの意見を素早く伝えて、いらないものをすべて中から除き捨てるか。

7 (1問目の質問に少しダブりますが)新作はこれまでにないタイプで、
ノリとしたら、新人バンドのアルバムのようにも聞こえる。この新しいチャレンジ、新しい「境地」、ここに達するまでの、『より自分の内面的な変化を考えてみると』どんな経緯があったのでしょうか? 

MM:それはすごく、すごくいい質問だね。ビル・ベリーの話にばっかり戻したくないんだけど、でも、ビルがバンドを抜けた時、僕らは一から自分たちを形成し直さなきゃいけなかったんだ。で、『UP』でそれを達成したと思った。今度は『REVEAL』でやったと思った。で、今度は『AROUND THE SUN』でそれをやったと思ってたんだ。でも……違うバンドなんだよね。同じ名前だけど、新しいバンド。それで、ここまでかかったんだ。R.E.M.は『REVEAL』作ったし、『AROUND THE SUN』もやった。でも今回はフォーカスを取り戻したR.E.M.なんだ。だから、これはすごくいい質問なんだけど、どうやって答えたらいいかわからない。唯一言えるのは、僕らは「自分たちの一番本質的な状態っていうのはなんだろう、このバンドの真髄はなんだろう」って問いかけてた、ってこと。今の僕らはそういうところにいるんだ。意味通じるかな。あんまり納得できない(答だ)けど、そういう風にしか言えない。

8 ↑上のように聞いたのは、ここ数年、REM内のお互いのリレーションは上手く運んでいなかった、作品にも満足がいってない、というマイケルの発言を読んだからです。そういうことは実際にあったのですか?
それがここ数年の過去の作品にも影響を与えていたのでしょうか?

MM:人と関係を持ったことはあるだろう? それがうまくいかなくなるのはいつ? 会話をしてない時、コミュニケーションをとってない時、だよね? 僕らはこの関係を、もう25年以上保持してきたわけだよ。亀裂が入る時っていうのは語り合ってない時。理由がなんであれ、会話をしない、お互いに自分がどう感じているか、なにを求めているか、なにが嫌か、ってことを伝え合わないでいると、壊れ始めちゃうんだ。僕らも、これまで何年もの間で、そういうことは数回あった。ビルがバンドを抜けた時にもあったし、前作の時にもちょっとあった。誰か一人が僕らのやってることが嫌だったとかどうとか、ってことじゃなかった。僕らも、必要なだけのコミュニケーションをきちんととらないこともある。だからそんな時は、まず立ち止まって状況に目を向けて、「なあ、話し合おう。なんか……イライラしてる? 怒ってる? どうした? どうやったら改善できる?」って言うわけさ。ピーターが不機嫌な時もあるし、僕の時もあるし、マイケルの時もある。そうしたら顔を合わせてじっくり話し合うしかないのさ。「よし、どうしたら僕ら全員にとって納得いくようにできるかな」ってさ。結婚みたいなもんさ。まさに! 夫婦そのものだよ、セックスしないだけ(笑)。それさえも夫婦関係みたいだね。夫婦でもセックスしてない人って多いからね(笑)! でも僕らはお互い、「どうやったらみんなにとって納得いく形にできる?」って語り合わなきゃいけなくて、そうしたんだ。『AROUND THE SUN』をやってた頃、一時期、僕らはいろんなことやろうとしてて……ツアーやって、グレーテスト・ヒッツも出して、いろんなことやってたから、自分たちがやってることに集中しなくなっちゃってたんだよ。だからこのアルバムを作るにあたっては、なにをやるか、どうしてやるのかを明確にして、実現させよう、って言ったのさ。

9 しかし私はよく思うのですが、バンドは必ずしも関係がうまく行ってなくてもいいじゃないかって。バンドのあり方に理想はないと思っていて、整合されず、矛盾や混乱をはらんでいることもまた、バンドというユニークなアート集団が音楽を生み出す活力にさえなりえるとも思っているのですが?

MM:誰のことを思って言ってるんだい(笑)?

>>って……。これはバンドをやっていない人間の勝手な言い分ですが、マイクが思うバンドという形の理想はどうあるべきかを教えていただくことは出来ますか?

MM:それは間違ってはいないと思うけど、僕らはかなり長いことやってきてるから、いい関係を保つっていうのはすごく大切なことなんだ。毎回同意しなくてもいいし、同じことを考えてる必要もないけど、少なくともお互いを理解していなくちゃいけない。だから……そう、制作において張りつめることがあってもいいと思うよ。いつも同じものを求めてるってことはないし。でもお互いに、なんで自分がそれが嫌なのか、っていうのは説明できなきゃいけない。僕がピーターやマイケルに、「それはよくない」って言ったら、「これこれこういう理由で」って説明するし、彼らも耳を傾ける。それで「よし、変えようか」って時もあるし、「いや、これは変えたくない。俺はこうしたいから、これはこのままにする!」ってこともあるし。とにかく話し合えないとだめなのさ。

10 それにしても色々あっても14枚目のアルバムが完成して、今もREMがこうしていてくれることを本当に嬉しく思っています。
でも、たとえば、バンドにはバンドをまとめる人がよくいますよね。
ラモーンズは鬼軍曹みたいなジョニーがいて、彼がバンドを守るためならどんな悪役にだってなってラモーンズを守った。
REMが14枚目のアルバムを作るようにバンドがまとまり、進めた、その大きな力の元は何だったんでしょうか?

MM:うん、ポイントは2つ。まず最初に、僕らはこのバンドを信じてるってこと。僕らそれぞれのエゴより、バンドが大切。自分のやりたいことを押し通す前に、バンドを優先させる。それともう一つ、僕らはお互いがすごく好きなんだ。友達なんだよ。一緒に語り合ったり遊ぶのが本当に楽しいんだ。だからその2つのコンビネーションのおかげで、葛藤や壁にぶち当たったり、自分の思うようにいかない時も、「そうか、いつも自分の思い通りにはならないけど、バンドは、自分たちの作る音楽は、ライブやレコードは、好き勝手するよりもっと大切なんだ」って思える。これが僕のバンドだったら話は違うけど、それじゃR.E.M.にはなれない。ピーター・バックのバンド、って言ったって、また違うバンドになっちゃうしさ。だから覚えてなきゃいけないのさ、僕らはお互いのことを愛してるってことをさ。そして僕らはみんなすごく才能がある、ってこと。そして、お互いの望みや欲するものを尊重してあげなくちゃいけない、って。

>>さらに……ちょっと話が膨らみますが、今私が言ったような、整合性のなさ、矛盾や混乱といった要素は、実はREMが最初から抱えている、音楽を形作る素晴らしい要素のように勝手に思っているのですが、同意していただけますか?

MM:ああ、もちろん。混乱はいいことだからね。僕らもいつも言ってきたけど、ちょっとした騒ぎは素晴らしいことなんだ。時にはプランなんてない方がいいこともある。ただギターをかき鳴らして騒音立てたい。文字通りにも、象徴的にも。自分のやってることを把握していたい時もあるし、そうじゃない時もある。自分が次になにするかわかってない方が楽しい時もあるしね。アンプを上げて騒音立てて、何かを起こすのさ。そうやってクリエーティブなものが生まれることもあるし。だから広い目で見れば、僕らがお互いに反対することでいいこともあるってことだね。ピーター・バックは素晴らしいミュージシャンだよ。でも僕は彼がやることすべてに同意はできない。でも彼は僕と同様、バンドの一員なんだよね。で、なんでうまくいくかって言えば、彼の音楽と僕の音楽が合わさると、またはぶつかり合うと、いいものが生まれるからなんだよね。うん、だから、うれしいよ。いつもスムーズである必要はない。お互いにぶつかりあってもすごくいいんだ。わかるかな。変な答かもしれないけど。

(↑上の質問に否定的なら)
ならばREMの音楽を構成する要素の1つでも、マイクが思うものを教えてください。

MM:1つじゃないんだ。要素は3つ。僕らにはきまったものがあるってこと……ベン図ってわかる? これがベン図で、うまくいく時っていうのがこの真ん中の部分なわけさ。
(※注:すみません!彼がベン図を書いてくれていました。マイケルの輪、マイクの輪、ピーターの輪を描き、その3つが重なった部分を差して「これがREM」と)

12 ところで今年は大統領選挙の年です。前回のときはvote for change tourとしても大きく関わっていましたが、今回の選挙に関してREMのステートメントは?

MM:まだだね。まだ指名段階が終わってないから。あと少しで民主党候補者が決まる。僕らは誰になってもその候補者を応援すると思うけど、今の時点では僕らの中でもそれが誰になってほしいか同意し合ってないから。僕個人的にはジョーン・エドワーズになってほしいんだ。彼にはならないと思うけど、僕は彼がいい。でも、誰になっても僕らはその人をサポートするよ。もうvote for changeはやらないと思うけどね。だってブッシュはもうおさらばだからね! なにがあってもブッシュは消えるからさ! たまらないね! それにああいうのはもうできないと思う。ブルース・スプリングスティーンがわざわざ出てきてそういう政治的なことをまたやるとは思えないし、僕らもバンドとしてはやらないと思う。個人的にはなにかしらするだろうけど、バンドとしてはやらないよ。

13 前作はアメリカへの怒りというものがアルバムの根底にあるように思いました。

MM:いや、政府に対して、だよ。アメリカじゃなくて。僕らはアメリカ大好き。共和党政府が嫌なんだ。

>>新作の根底に流れている感情はどのようなものだと言えますか?その感情を最も顕著にマイクが込めた、また見出せる曲は具体的にはどれですか?
また逆に、そうした感情とは真逆にあるような曲というのも存在しますか?

MM:根底に流れている感情っていうのは特にないかもしれないけど、歌詞的に言ってマイケルというか、僕らみんなブッシュ政権に対してすごく怒りを感じているから、それも少しは歌詞の中に入ってるよね、もちろん。14枚もアルバム作ると、恋愛とかセックスのことなんて書きたくないんだよね。いや、もちろん書くけど、そういう曲ばっかりでアルバム1枚は作れない。もっと広い視界で、自分の周りでどんなことが起きているかが大事になってくる。だから、そう、このアルバムにも、ジョージ・ブッシュとあいつの本当に馬鹿な政権が行ってきたことに対する怒りはもちろん入ってるよ。

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