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斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
by オクノ総研
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■コングロマリットディスカウント
日本企業の企業価値の分析をしていると、行き詰まる事が多い。
企業価値の分析は企業単体だけで行うわけではない。
同業他社との比較によるベンチマークを行う。
国内企業だけでは、分析しきれないので、海外の同業他社との比較を行うことが必須である。
と、すると行き詰まるのである。
日本企業は、いわゆる「総合××」が多い。
総合電機だとか総合商社だとか総合化学だとか。
それに対して、海外企業には総合××は少ない。
ほとんどの場合、特定分野に特化している。
総合××企業など、GEくらいのものだ。
日本企業の場合、大昔からいわれているBCGのポートフォリオ理論(ポートフォリオ理論については、今更書く気にもなれないので適当に調べてください)に沿って企業が経営されていることが多い。
総合××であることによって、複数の事業のリスクヘッジを単一企業内で行っているわけだ。
だが、それは既に古い。
株式市場ではコングロマリットディスカウントという言葉がある。
総合××、ということは、すなわち、企業単体の内部でのリスクヘッジであり、投資家にとっては、自分でポートフォリオを組む事ができない。
例えば、日本の電機会社の場合、デジタルテレビ、携帯電話、パソコン、半導体、炊飯器、掃除機、エアコン等々、恐ろしく幅の広い事業領域を抱えている。
さらには金融事業やら住宅、不動産にまで手を広げていたりもする。
投資する側からすると、それぞれの事業は成長期であったり、成熟期であったりバラバラである。
それにもかかわらず、株式投資は、総合××企業全体にしかできない。
僕が、デジタルテレビは成長するから多めに投資して、炊飯器には少なめに投資しよう、と思ってもそれは無理。
総合××全体にしか投資できない。
俺様ポートフォリオは組めず、総合××にしか投資ができない。
半導体と炊飯器を作っている企業の価値評価は難しい。
結果的に、投資は辞めておこう、ということになる。
これがコングロマリットディスカウントである。
企業が特定領域に事業を絞ってくれていれば、自己判断でポートフォリオを組めるのにね。
海外の企業、特に米国系では、総合××という企業は少ない。
何らかの事業に特化している。
GEは例外的なコングロマリットだけど、業界で1位、2位の事業領域のみを残し、それ以外は、売却するなりしていて保有していない。
日本企業のように、何でもかんでも保有している単一企業完結型のポートフォリオ理論による経営は成立していない。
で、日本企業と海外企業とのベンチマークを行おうとすると、日本企業の場合は、総合××で事業領域が広すぎるがために、ベンチマークが難しくなる。
事業単位で分割すれば、事業価値の評価も容易に行えるのだけれど、コングロマリットの評価は難しい。
抱えているそれぞれの事業の価値が異なるのだから、総合××全体としての事業評価は困難になる。
企業の論理によるとシナジー効果がどうのこうの、ということになるのだろうけれど、企業価値を評価する側にとって、コングロマリット企業の評価は鬱陶しいことこのうえない。
投資家の立場でも、投資家自身でポートフォリオを組むことができず、コングロマリット企業の経営判断で、事業ポートフォリオを組まれてしまうので、投資には躊躇せざるを得なくなる。
そして、起こるのがコングロマリットディスカウント。
投資家にとって、リスクヘッジのために、関連性、連動性の低い事業に分散投資することは基本である。
そして、そのポートフォリオは自分で決める。
でも、コングロマリット企業、総合××企業では、企業側がポートフォリオを決めてしまう。
日本の大企業の経営者にとっては、自分達で事業ポートフォリオを設定することが経営なのだろう。
だけど、投資家の立場からすると、それは大きなお世話というか、迷惑な話だ。
単一事業だったら、事業の価値は評価し易いし、自分の判断でポートフォリオを組める。
だけどコングロマリット企業に対しては、ポートフォリオを経営者に委ねざるを得なくなる。
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10月28日(金)
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