ID:98098
Lyrical-mode
by しゅーこ
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■小噺
*月曜に11年目の更新が間に合わなかったので‥‥
『特別』(ハリスン×リリィ+ローズ)
恋人同士、とくに婚約しているのだからファーストネームで呼んで欲しいと
あの人は言うけれど‥‥。
あたしからすればずう〜っとハリスンさんと敬称をつけて呼んできた人を
いきなり呼び捨てにはしづらい。
しかもハリスンさんはあたしより十歳は年上らしいのだ(正確な年は最近知った)
うーん。
周りを見渡してみるとうちほど年が離れているわけじゃないせいかメグちゃんも
最近は旦那様のことを「リチャード」って呼び捨てにしているらしい。
ずっと様付けだったことを考えるとそれだけお二人の愛が深まったと
いえるのかもしれないけど‥‥あたしには無理、絶対無理。
「まさか、私のファーストネームを忘れたんじゃないでしょうね」
「も、もちろん、覚えてますよ」
いっそ忘れたことにしたほうがよかったかと後悔したけれど、考えるより先に
あたしはそう返事してしまっていた。
「ならば言って御覧なさい」
「せ」
「ん?」
「セシル=ハリスン様です!」
ハリスンさんの顔が一気に怖くなる。
な、なんで?合ってるよね?間違ってないでしょ?
うわ、怒っちゃってるよ、この人。なんで???
* * *
「そりゃあ、あなた、がっくりきたのじゃなくって?」
あたしの為にお茶を入れてくれながらローズさんが言う。
「なんで?あたしちゃんと言いましたよ?」
「様をつけたのがまずかったのよ。きっと。それに姓もつけたのも。
ハリスンはあなたに恋人らしくあま〜い声で『セ・シ・ル』って言って
もらいたかったのね」
「ええ〜!?」
あれ?ローズさん、ハリスンさんの呼び方が変わっている。
「ふふ。気が付いた?あのね‥‥」
ローズさん曰く、先日アーサーさまが顔色を変えて『これからはセシルじゃ
なくってハリスンと呼ぶぞ』と言ったとか言わないとか。
「でもどうしてですか?」
たしかハリスンさんのお父様(エドガーと言う)と区別するために名前で
呼んでたんじゃ‥‥?
「うん。滅多にエドガーは表に出てこないじゃない?だからもう紛らわしく
ないことだし家令と主との立場をはっきりさせるとかなんとかアーサーは
つぶやいてたけどね」
「はあ?」
ローズさんの口調は表立っての理由の後ろに何か隠されている‥‥みたいな
感じがした。
「要するに『特別』にしたかったのね」
「?」
意味が解からない。
「だからー。せっかくあなたがファーストネームで彼を呼んだ所で、わたくし
たちも同じように呼んでると特別感がないじゃないの」
「は、あ‥‥はあ!?」
最初の『はあ』と後の『はあ』はあきらかにトーンが違う。
「そういうわけでわたくしたちはこれから彼のことはファミリーネームで
呼ぶことになったから」
ちょ、ちょっと待って。
なんで家令であるハリスンさんの意向にアーサーさまが従ってるわけ??
「だからせいぜい甘く呼んであげてちょうだいね」
うふふとからかうようにローズさんがそう言った後思い出したように付け加えた。
「あ、それから、このことは聞かなかったことにしてあげて?でないとアーサーがしめられるらしいから」
ま、わたくしはどっちでもいいんだけどーとローズさんは艶やかに笑った。
蛇足)
リ:「ところでセシルってどういう意味なんですかねぇ」
ロ:「フランスにいくとセシルは女の子の名前になるの。聖女さまの名前よ。
あ、でも英国では少し違うのね。男性名のセシルはウェールズ語よ。
元はラテン語からきてるらしいわね」
リ:「へぇ。ラテン語」
ロ:「ええ。たしか意味は『第六の男』ね」
遠い異国の仏教には『第六天魔王』なる外道最強の魔王が存在することなど
二人が知る由もなかった‥‥。
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09月28日(月)
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