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雪さんすきすき日記
by 氷室 万寿
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■「秘封フラグメント」のこと
 7時半頃起床。

 「秘封フラグメント」(シカクゲームズ)を真のエンディングにまで到達したので感想を。
 蓮子とメリーの出会いから秘封倶楽部の結成、そして蓮台野夜行を成功させるまでを描いた東方二次創作VN。
 VNといってもこの作品に選択肢は無い。プレイヤーは物語の進行上で特定の場所で入手する文章(フラグメント)の中にある語句を選択して記憶(メモリー)することができる。そして、分岐が発生する場面でそこに適したメモリーを選んでいると物語が分岐するというシステムである(分岐の条件はメモリー以外にもあるが)。フラグメントの入手順と分岐の登場順は必ずしも一致せず、物語を前後しながら分岐を埋めていくこともあるが、フラグメントの入手場所と分岐の場所は可視化されており、物語を進める上で大きなヒントになる。

 体験版をプレイして、まるで自転車創業のANOSシステムみたいだと思ったら、READ MEにちゃんとANOSリスペクトと記されていた。なので、ANOSをプレイしていたプレイヤーならこのシステムにはすんなり馴染むことができるであろうかと。フラグメントと分岐の場所が可視化されている分だけ、ANOSよりも親切な作りになっている。
 フラグメントは数多く登場するのでメモリーも膨大な量になり、総当たりは通用しない。しかし、前後の文章を読めば正解に行きつくようにきちんと誘導はなされており、理不尽さは微塵も感じられなかったのはよく作り込まれた証拠かと(1箇所だけ結構辛かったところもあったが)。その上で、場面に応じてメモリーを選択する頃合いが絶妙に設定されており、複数のメモリーを順次適切に選択しなければいけない場面もあって、コマンド入力式ADVさながらの手応えにゲームとして大満足。ただ、間違えるとその場面の冒頭からとなり、やり直しが面倒という印象も受けた。
 メモリーに関しては、キーワードに対する固定概念を見事なまでに打ち砕かれて、ただひたすらに感服。この場面には序盤で遭遇したが、秘封倶楽部を知る者であれば必ずたどり着くメモリーでこの手法を示した公明正大さは見事の一言に尽きた。
 そして、このシステムの真の姿が2周目でさらけ出された。2周にした意味合いやフラグメントの巧みさ、セーブとロードの存在意義など、次から次へと驚愕の事実が発覚して鳥肌の連続であった。予想を遥かに上回る作り込まれた内容に、エンディングに到達したときには最早ぐうの音も出ないほどに満ち足りた気持ちとなった。

 東方二次創作としても、音楽CD「蓮台野夜行」のライナーノーツを始め様々な公式設定をふんだんに盛り込み、その上で独自の設定や解釈も違和感なく溶け込んでおり、非常に読み応えのある素晴らしい構成であった。ゲームをクリアしてからライナーノーツを読んだら後半の展開がそのままだったが、再現度の高さに加えてノベルゲームならではの表現を活用して臨場感が増していたことに好印象を受けた。

 この作品をプレイして、ANOSをプレイした時の興奮が見事に再現された。その上で、特にメモリーに関してのこの作品独自のシステムで新鮮な面白さも感じ取ることができた。東方二次創作としても十分に読みごたえがあり、東方二次創作とADV両方の面において傑作と感じられた作品であった。
04月12日(日)
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