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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■【クチミミ稽古日記〜1日目〜】朗読のコスプレ?
でも、出演者の片桐慎和子さんは、平然と根気強く話を聞いてくれました。
その後、逆に「地の文」こそ「どこの誰でもない人」として客観的に読むよりも、私たちに理解できる感情を込めて読む方がわかりやすくなるのではないか、という話になり、<地の文の人の感情><兎の感情><学者の感情>について考えながら1回読んだらタイムアップで稽古が終わってしまいました。


おそろしく要領の悪い稽古場で、もしかしたら稽古とは言えないようなことをやっているのかもしれないのですが、でも、これ、楽しいんですよ。かなり。
稽古場に行く前と帰るときで、台本の見え方が全然違う。
登場人物の見え方も全然違う。
稽古する度、作品の全体像も目指すべき地点も変わっていく。
それまで考えたこともなかったことがたくさん、稽古場で共有されていく。
棚を作るのと同じで、これまではたしかに見えてなかったはずのものが、もはや最初から当然そこにあったものにしか見えなくなっていく…

その状況を許してくれる出演者に恵まれてきたことに心から感謝しています。

だって、言い方を変えれば、稽古に先立って具体的なビジョンがなく、全体像も、見えていて当たり前のことも見えないままに進めていくってことですから。いや、私もさすがにこの年でそれはまずい、と思って、最近、機会あれば別の演出家の方の稽古を見せてもらいにせっせと稽古場通いしているのです。
だから、そのうちもうちょっと段取りよくなるはずとは思うのですが…。

でも、だからこそ、今は誰も知らないけれどきっとあるはずの「完成形」を掘り当てるべく、あきらめずに精進しなくてはと思うのです。なにが何でも見つけ出さねばと思うのです。

……そんな感じで、クチミミ稽古、1日目は終了したのでした。
帰ったらぐったり疲れて、焦点が定まらない感じで、そしてなぜかわからないのですがひどい筋肉痛でした。


稽古のときにうまく言葉にできなかったことを、帰ってから日記を書きながら考えてみました。
要するに、

「知らないことを知っているかのようにさらっと説明すると余計に分りにくくなる」
というシンプルな問題なんだなと思ったのです。この物語の中にしかない<理由>や、この物語の中の登場人物にしかない<感情>が、物語の中にちゃんと見えるようにしたい。そのためにはどうすればいいのかを考えて工夫しないといけないということなんだと…。

翌日、出演者の片桐慎和子さんに、この日記に書いたことを一生懸命伝えたら、ふむふむと聴いてくれて、

「演劇も同じですね。恐ろしいことですね。」
と云われました。たしかに。


そして、
はっ。と気づいたのです。

今回クチミミの久野パートで読む「王国」という本の中に、

王国のことを誰もが知っていましたが、王国については誰も何も知りませんでした。

という一文があるのですが、つまり、この王国って、もしや…!

役者さんに、
「あの物語のことが、ちょっとわかったような気がする。私たちが今やろうとしてるのは、つまり、『王国』の研究なんじゃないかと…」
と云いましたら、

※注 「王国」は、幻の「王国」のことを研究している学者の卵の物語なのです。


「へえ〜。そうなんだ〜。」

と感嘆の返事が。

全体像にはまだ遠いですが、目指すべき方向が少しずつ、見えてきたような気がしました。
私パートの稽古はあと4日です。
着々とはいきませんが、よいものを見て頂けるよう、地道にがんばります。


ちなみに、「王国」の中にはこんな一文もあります。

ここから先はもう、何を頼るわけにもいきません。出会った人に尋ね、出くわした出来事をよりどころにして進んでみるしかないのです。

07月19日(金)
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