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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■セキレイさんのこと。
今の部屋に越してきて2年になる。
大きな窓と大きなベランダのある部屋。
南以外は開けていて、空が大きく見える部屋。

水やらパンくずやらが散らかっているので、すずめが来るようになった。
最初は1羽。そして2羽。
やがて小さな集団になり、5月には子すずめが加わった。

すずめは団体で行動する。
けれど、団体行動する理由がいまいちよくわからない。
団体で飛んで来る癖に、誰一人、同じことをしていない。
かといって、分業しているわけでもない。
各自がばらばらに行動している。(ようにみえる)
それは団体行動ではないだろうと思う。
誰がリーダーかわからないし、ぜんぶで何羽のグループなのかもわからない。そもそも誰がメンバーなのか、本人たちもわかってないのではないかという気さえする。なんと、来る時と帰るときでメンバーが違ったりする。
団体が帰った後にはだいたい1羽2羽残ってる。
誰なんだ?
カップルでやってきて柵の上に仲良く並んでいると思ったら
「ぴよ。」とか言ってひとりだけ帰っていく。振り返りもしない。
残った方も特にあせったりしない。そのうちどこかへ去っていく。
彼らは今度どこで出会えるんだろうか。

いつも食べることばかり考えているというわけでもないようで、柵の上やら植木鉢の淵に止まってぼんやり遠くを見ていたりする。ときどき首をかしげて場所を変える。
横棒の辺だけでなく、縦棒の先にも器用に止まる。
そして、しばらく居る。
何か、重要なことを考えているように見える。
すずめは、調べたりメモしたりすることができないので、頭の中で解決しなければならないことは私たちよりはるかに多いのだろうと思われる。覚えておかなくてはいけないことも。

近くを見るときはぼんやりしない。
首ごと振り向けてしっかり見る。ときには背伸びをしてまでも。
すずめは、ものすごくしっかりと、ものを見る。
いったい何を見てるのか、気になって視線の先を目で追ってしまうほど。
鳥には360度近い視野があるらしいのに、とても不思議だ。
あえて首を振り向けて、見ていることを周りに知らせたいのだろうか?
マジシャンみたいだ。実はトリックなのか?
あるいは。見たいものを見るためではなく、見たくないものを見ないために、首をしっかり動かす必要があるのかもしれない。

            *******

子すずめは1週間ほど親鳥について研修を受ける。えさが自分で食べられるようになったら独り立ちする。研修期間中、すずめのおかあさんはものすごく優しい。
ぴったりとわが子につきそい、四六時中口の中になにかつっこむ。
おかあさんが餌を探しに出かけている間も、こすずめは勝手にうろうろする。おかあさんは叱りもせず、わが子を丹念に探し出しては餌を与えに走っていく。だいたいは1匹づれなのだけど、たまに2匹連れてるおかあさんもいる、それはそれは大変そうだ。ひとりに餌をやってる間にもうひとりは普通にいなくなる。
けっこう大きくなってきて、自分でえさを食べれるようなこすずめにも、おかあさんは必死で口をあけさせ餌を突っ込む。自分で食べてるこすずめの口を無理やりにもこじあけてえさをねじ込んでいたりする。おかあさんの必死さには鬼気迫るものがあり、たまに痛々しくさえある。
彼女がこすずめにしてやれることはきっともうあれだけなのだろう。

研修期間が終わると、親子はあっさり離れてしまう。おかあさんは独身に戻り、娘時代の仲間のところへ戻っていく。こすずめは同期のすずめたちと新しいグループをつくる。
最初はぎこちないけれど、寒くなるころにはずいぶんスキルアップして立派なすずめになっている。ふわふわの羽根をいつもきれいに手入れして、枝の上にくっつきあって並んでいる姿は壮観だ。若者グループは、春になるまで団体行動(???)し、春になるとひとり、ふたりとそこを抜けてカップルになる。

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セキレイさんは、すずめとちがって、1年通して観察することはできない、
寒くなるとどこからかやってきて、あたたかくなると去っていく。

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05月11日(水)
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