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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■シャイニング
最近。すごい出来事があった。
いや、できごと自体はものすごく地味なんだけど、大きさがすごいのだ。
これではたぶんわけがわからないと思うので具体的に言うと、映画をふたつ見たのです。
できごとは地味でしょ。
だけど、これはおおきなできごとだった。
最近。わたしが会ったひとはみんなこの話を聞かされている。
(ごめんなさい。日記に書いたらちょっと落ち着くかも。)
「シャイニング」という映画をビデオで見た。
スティーブン・キング原作の映画。
「ものすごーくおもしろい」という噂を聞いてたから。
わたしは「恐怖」に関する感覚がいまいちうまくなくて、
クイズとかなぞなぞとか数学の問題とかがむちゃくちゃ怖かったりする。
「メルヘン」とか「童謡」とかもむちゃくちゃ怖かったりする。
ホラー小説を読んでもあんまり怖いと思わない。
「ホラーを見て怖い」という正当派なことを、ちょっと、やってみたかったのだ。
しかも「シャイニング」。
冬の間雪の中に閉じこめられる古いホテル。
その中でひとふゆを越す作家とその家族。
ひとり息子はなんだかただ者ではなさそうだし・・・
監督は「キューブリック」という有名なひとらしい。
とくれば・・・、
もう、わくわくしながらビデオのスイッチを入れた。
しかし。
見終わって。
「・・・・・。」
怖いどころではなかった。
なんというか・・何の感想もわいてこなかった。
見事に。
おもしろいのかおもしろくないのかさえも、わからなかった。
いくら私がホラーに不適切な感性を持ってるからといって、
ほんとうにこれでいいのか?
あまりに真っ白な心の中をどうにももてあまして、
インターネットで「シャイニング」を検索してみた。
検索してどうなるものでもないと思ったけれど、
何かしないと落ち着かなくて。
驚いた。
満足しなかったのはわたしだけではなかった。
スティーブン・キング自身があまりのおもしろくなさに奮起して、
自分でもう1本映画を作り直してしまったらしい、ということがわかった。
これにはかなり驚いた。
だって、作家というものはふつうは映画を作ったりしないものだ。
映画を作ったりしなくて本を書くから作家なのだ。
映画を1本つくるというのは、映画監督にだって、大変なことなのだ。
「作家」に、映画を作り直したくなるほどのショックを与える作品とは何なのだ?
この映画はいったい何をしたのだ?そして何をしなかったのだ?
あまりに気になったので。
その日の内にもうひとつの「シャイニング」を借りてきて見た。
泣いた。
とても悲しい物語だった。
そしてそれと同じだけ、美しくて優しい物語だった。
美しく優しいものが悲しいということに、ぞっとするような恐怖があった。
もしかしたら、本当は、異常なことは父親の頭の中でだけ、起こっていたのかもしれない。
SFやホラーの形式を利用した、アダルトチルドレン(アルコール依存症の親子)についてのドラマなのかもしれない。でもそんなことはどっちでもいいのだ。
彼らの間に起こった恐怖とできごとの大きさはあれに匹敵するわけだから。
燃えるホテルの部屋から、7歳の息子が父親が完成させることのできなかった作品の一部をそっと持ち出すところで、涙がでて仕方がなかった。
ふたつとも見てから。
ふたつとも見てしまったが故に考えこんでしまった。
私は映画は作らないけど台本は書くので、どうしてもキングの方の立場に肩入れしてしまう。沸々と腹が立ってきた。
これはもう創るしかないでしょう。映画。
と思った。
簡単に言うと、ふたつの違いは、キューブリックの方は幻想的であり、キングの方は現実的。現実的な方が怖いというのは矛盾しているように思われるかもしれないけど、わたしはそうは思わない。だって、実際怖いもの。
まず着てるものが違う。
キューブリックの映画に出てくる奥さんはロングスカートをはいて髪を長くのばしている。
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05月06日(月)
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