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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■セキレイさんのこと。
春が来て、やがてベランダに暑い日差しが差し込むようになる頃まで、毎日毎日きた。そんなに長い間見ていても、すずめたちのように目になじんだり、親しみがわいたりすつことはなかった。セキレイさんもおそらく、そうだったのだと思う。
セキレイさんは冬が来たころにやってきたんだったな、
とあるときふと気付いた。
それはつまり、寒い時期だけやってくる類の鳥だということだ。
それに気付いた時、私はもうひとつのことにも気づいてしまった。
セキレイさんは、あたたかくなるといなくなるのだ・・・。
私は、自分でも驚くほどに動揺した。
あんなに、違和感だらけのセキレイさんは、今ではその違和感がベランダの必要不可欠な要素であると思えるほどに、そこに馴染んでしまっていた。あんなに大きな違和感がなくなってしまったあとの風景をもはや想像することは難しかった。そんな日が来てしまうことにびくびくしながら、私は毎日ベランダを覗いた。
それでも、セキレイさんは毎日来ていた。
毎日来ているセキレイさんを見るのが楽しみになった。
彼らがいなくなる日のことを思うとせつない気持ちになった。
「その日」はどんな風になってくるのか・・・・。どきどきしながら毎日ベランダを覗いた。
*********
すごく覚悟して、すごく心の準備を整えて、待っていたのだけれど、
実は、「その日」というのは訪れなかった。
セキレイさんはたしかにいなくなった。
いなくなったのだけれど、「いなくなった」というよりは、セキレイさんが来ない日がくるようになったのだ。なんとなくそんな日がやってきて、そんな日が続いて、いつのまにか、ベランダは、セキレイサンが来るベランダではないベランダになった。
セキレイさんのいないベランダには特に違和感がなかった。
違和感がなくなったのだから、違和感がないのは当たり前かもしれなかった。
でも、たしかにセキレイサンはこなくなった。
でも、それは拍子抜けするくらい、なんとなくなのだった。
私も、すずめたちも、セキレイさんのいないベランダに慣れていった。
半年が過ぎた。
2年目の冬が来て。新しい年が明けた。
夕方暗くなりかけ、すずめたちが帰った後。
べランダの、硝子戸の前に、セキレイさんが立っていた。
「セキレイさん・・・」
思わず声をかけたけれど、セキレイさんは気づいてくれなかった。
それが、セキレイさんとの2回目の出会いだった。
(続く)

05月11日(水)
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