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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■続・セキレイさんのこと。そしてヒヨのこと。
「さあ。私をお撮りなさい。」と言って(言ってないけど)。

すずめたちにパンを投げてやると、蹴散らすようにやってきて横取りする。
自分の4分の1ほどの小さい鳥をキッとつついて「キーキー」鳴くのだ。

迷惑なので、帰ってもらおうと音をたててベランダのサッシを開けても、平気でこっちを見ている。逃げていくのはすずめたちとセキレイさん。
ヒヨドリは逃げないばかりか手摺の上からふわりとベランダに降りたって丸い目でこっちを見ている。
「パンはもうありませんよ。今度は何をくれるのですか?」
という顔でこっちをじっと見ている。
ヒヨドリはものすごいポジティブシンキングの鳥だった。
私がすることはすべて、自分のためにしてくれるのだと思っているようだった。

すずめたちをいじめるしキーキーうるさいので、思いきって氷を投げてみた。
当たらないように外して投げたのだけど、なんと、わざわざ追いかけていって食べてしまった。「コントロールが悪いのです。仕方がないからとりにいきます。」と言って(言ってない)。
氷では攻撃にならない。
次の作戦として、水鉄砲を買ってきた。子供むけのものではあるけれど、飛距離のちょっと長めの、タンクに水をためておけるタイプのものだ。
かわいそうかなと思ったけど、情をかけてはあとでややこしいことになると思い、思いきって発砲してみた。今度は狙いを定めて。

無力だった。ヒヨはひょいっとよけて、丸い目で得意げにこっちを見ていた。スポーツかなにかと思っているようだった。

こうしてヒヨドリとの戦いの日々が始まった。これは、セキレイさんの物語には予定されていない章だった。ヒヨドリはヒヨドリさんではなく、「ヒヨ」になった。理由はわからない。なんとなく。
ヒヨとの戦いは、永遠に続くかのように思われた。私は毎日氷を投げ、毎日水鉄砲の水を補充した。

セキレイさんと違って、ヒヨは集団でやってきた。
ハトより少し小さい鳥がベランダの手すりに8羽も並ぶのは、どう見ても異様な光景だった。ホラー映画のようだった。怖がるか笑うしかなかった。
でも実際は怒った。

私は見てしまったのだ。鉢植えのネメシアの花をむしゃむしゃ食べているところを。長いくちばしでくくっとついばんで上をむいて喉の奥に長しこむ。丸い目を細めてむしゃむしゃむしゃと咀嚼する。

・・・・・・・花を・・・・!!  ・・・・・・食べるなんて・・・。

そういえば、つぼみはできるのにちっとも花が咲かないと思っていた。
お前だったのか。
ヒヨが来てから、ベランダが地味になってしまった。
寒くなって外にえさがないのか、とにかく、片っぱしから花を食べているようだった。正確にいうと、花のつぼみを。1つずつむしゃむしゃむしゃと本当に幸せそうに食べた。ヒヨは偉そうにしてるか幸せそうにしてるかどちらかなのだった。

ベランダにはミニバラしか咲かなくなった。さすがにとげのあるバラだけは食べられなかったから。
いちごもやられた。むしゃむしゃたべているところを見つけて「あ。」と叫んだら振り向いた。振り向いて咀嚼していた。ぱんぱんと手をたたいたら、めんどくさそうに重い腰を上げた。すごく不愉快な気分になった。

このままでは、ベランダがヒヨに侵略されてしまう。
すずめたちに対しても申し訳がたたない。すずめたちは自分より2回りも大きくて空気が読めないどころが好きなように書き直していくヒヨたちに困惑して距離をはかっている様子だった。

一方、セキレイさんははっきりとヒヨを疎んじていた。彼らは静かに、自分のペースで、思う存分落ち着きなく歩き回りたかったのだ。
邪魔されるのは嫌なのだ。
セキレイサンはとてもドライだ。どうしても許せないものが現れたら何も言わずすぐにさくっとそこから退去するのだ。
(寒くなることも許せないのかもしれない)

こうして。

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10月04日(火)
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