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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■「オウエンのために祈りを」
ものすごく長いこの物語は、最後に「オウエンが生まれてきた理由」をすっかり余すところなく説明して終わる。オウエンがオウエンでなければならないこと疑うことなく信じ、絶対にあるはずの「その理由」を探し続けた結果、彼は彼の最も望んでいたものを手に入れるのだ。オウエンの悪あがきのように見えた荒唐無稽な人生は、一転して、彼が彼である理由を説明する物語に変わる。すとん、と胸のすく結末が用意されている。

それは他人にとってはとんでもなく「非現実的」で「観念的」で「正気の沙汰とは思えない」しかも「悲惨な」物語なのだけれど、オウエンにとっては何よりも確実で何よりもなくてはならない理由だった。

オウエンが自らに与えられたものを疎ましく思い、「もっと希望に満ちた理由のある」自分を求めて行動したりしたなら、とてもつまらないものになっただろうと思う。小説も、オウエンの人生も。でも、オウエンは自分に起きたどんな理不尽なことにも悩んだり迷ったり後悔したり反省したりしない。諦念というのは実は圧倒的に生産的なものだったりするのかもしれない。

「オウエンのために祈りを」はきっと、壮絶な悲劇なのだろうけれど、でもなぜだか悲しみというよりは切ないけれどきっちりとした優しさに満ちている。「なんにでも理由がある」というのはそういうことなのだと思う。

でも、きっとそれだけじゃなくて。
オウエンは小説の登場人物なので、オウエンのために祈ることのできるひとたちがいる。

語り手のジョンと、アーヴィングと読者だ。

そのことが、とても重要なことのような気がする。

10月09日(木)
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